京都河原町には涙が似合う

■ 99/03/29(月) 17:14:35 □ MDゲット!
 Mを迎えにいってから店を訪ねたのだが、皆仕事が思い通りにいかなくて暗 い顔をしていた。俺達がいるわずかな間にも「ソースの味が違う」「ガスの火 力が弱すぎる」などと重大な問題が次々に持ち上がっており、これはえらいこ とだと心配する。店を立ち上げるとはこれほど大変なことなのか。兄貴と薫さ んに同情してしまうのだった。  そしてMDデッキ購入。ついにデジタル保存メディアが手に入った。とりあ えず主目的のアナログレコードコピーをしてみようとレコードプレーヤーをつ ないだのだが、なんとレベルが小さすぎて録音できない。ああそうだ、レコー ドプレーヤーってアンプを通さないと録音できないのだと忘れていた。なにし ろ最後にオーディオをいじったのが15年以上前だからなー、すべてを忘れて いる。それで高校のときに買ったアンプを母さんの家まで取りにいき、それを つないでやっとアナログレコード録音ができるようになった。ふー。  録音を始めようとして回転がおかしいことに気づく。そうだレコードは長野 だと 60Hz なので回転を合わせなきゃならないのだ。くそおとギターを音叉で チューニングして「Since I've been loving you」に合わせて弾くことにより 合わせようと不可能なトライをしたが不可能なので、よく調べたら調整装置が ついていた。時間を無駄にした。それを合わせて針圧を確かめ、水平を保って から針のゴミを取り、レコードをクリーナーで拭いて録音開始。やっぱりアナ ログは本当に大変だ。すたれたのも無理はないとつくづく思った。これに加え て針の寿命があやふやだから俺もレコードを聞かなくなったんだよな。  さっそく再生してみると、音がめちゃしょぼい。ぐぐ、CDラジカセって自 前のCD再生のみにアコースティックをチューンしてあるのだ。これじゃ話に ならぬ。くそーとまた母さんのところに行って昔使ってたスピーカーを取って くる。こんな20年前のステレオがいまだに使えるのだから、俺ほど物もちの いい男もいない、不動のTZRすら残してるくらいだからなと思いながらスピー カーをつないで再生。....... おー。すごい、劣化ゼロ。完璧に録音されてい る。望み通りの性能だ。  が、原音通りといっても元の音がよくないのに気がついた。レコードが痛ん でるせいか歪みがあるし、ダイナミックレンジが狭い。「A Day In The Life」 のオーケストラがせり上がっていく部分なんかダイナミックレンジの見本で、 ヘッドホンで聞くと背筋が寒くなるほどなのだが、スピーカーで鳴らしてみる と以外に狭くなっていることに気がつく。やっぱりCDからデジタルでコピー したいなと思う。手入れの悪い俺のレコードって音が悪かったんだなーと今に して反省した。 ----------------------  SGT. Peppers と Harvest Moon とホワイトアルバムのCDをダビングしな がら仕事を終わらせる。Happiness is a Warm Gun が終わった瞬間に「はあ」 とため息をつく間もなくB面の曲が始まったり、ホワイトアルバムはCDだと 音の割れにエッジが立っているように聞こえ聴きづらいし、やっぱりCDはア ナログ盤とぜんぜん違うなと思う。昨日感激したのは Since I've been loving you で、なんとバスドラのペダルの音がキッキッと聞こえるのだ。ア ナログ盤と比較してみると、たしかにアナログ盤にも入っているが、まったく 聞こえてない音だった。このへんがさすがにノイズレスである。  CD→MDデジタルダビングをやってると、音楽の聴き方が無茶苦茶横着に なる。無音でダビングしながら他のことをやっていて、録音が終わったらMD の方を飛ばし飛ばし聴き、いらぬものをカットしていくという方法が身に付い てしまった。今ダビングしてるのは全部昔死ぬほど聴いたものだというのもあ るけれど、とんでもねえなと自分で思う。......が、これがなんというかコン ピュータエイジのデジタルの Web オート巡回的な快適さなのだ ^_^;。すでに 10枚、700 分のダビングをしてしまった。アナログ時代には考えられない作 業 (!) の早さである。ビデオも早くデジタルディスクになってほしいもの。
■ 99/04/08(木) 12:20:09 □ ユース・アメリカ戦
 残 992 として風呂に入り、万全の体制でワールドユース・アメリカ戦。出 だしに会場が沸きまくるほどの美しいパス回しで崩し、オウンゴールで先制し た。その後はアメリカの放り込み政策にてこずっているが、まあこの試合なら もう1点は取れるだろう。本山がほんとにすばらしい。外国人選手を相手にス ピードで抜ける選手なんて日本には他にはいないんじゃないか。  永井と小野はちょっとなあと思う。永井は完全にフリーでヘッドを打たせて もらいながら、あせって体がブレてジャストミートできなかった。小心さを感 じさせる体の動きで、今後も期待できなそう。現時点で若く未熟な黒崎という 感じで、成長しても黒崎以上にはなれないと思う。  小野は5回ボールに触ったら3回は意表をついたことをするのだが、それが ことごとく無駄に見えてしかたがない。危険なエリアまで持ち込んでいけば意 表をつく価値もあるのだが、ゴールから離れたところで芸を見せても次に結び つかない。トリッキーなことはやめて普通にプレーしてほしい。プレスを受け つつボールを受けたときに、相手が来るのを待ってトリックを使うのではなく (トリックで抜けるほど切れはないのだ)、相手が来ないうちに次の展開に移っ てほしい。イライラする。アジア大会に次いでまた体調が悪いのかな。高原が 2点目ゲット。よし。パスがつながる時間帯はすばらしすぎる、フル代表より もパスが速い。  その後足が止まりアメリカのラッシュに完全に押し込まれ、日韓戦的展開と なり、走れる選手を入れてくれ頼むトルシエこのままじゃ点を取られるのは火 を見るより明らか......と思ってたら日韓戦的に入れられた。その後もう一点 取って難を逃れたが、トルシエの采配も遅いなあ。1点を争うゲームになった ら―――サッカーは全部そうなのだが―――、この投入遅れは致命的になって しまう。不安。
■ 99/04/15(木) 13:43:58 □ ユース・ポルトガル戦
 今日でレコードプレーヤーを片づけねばならぬので、最後に「ジョンの魂 / Mother」を録音する。これもレコードの古さでジョンの声が割れるが、現時点 でこれ以上の音源はないのだから仕方がない。あきらめよう。今はとにかく聴 ける状態を作っておいて、未来に望みをかけよう。このアルバムはまったくもっ て重い、すごいアルバムだ。 ----------------------  02:32 なんと現在ポルトガル戦、PK戦になった。うーむ。後半途中まで は1−0で、ボールもコントロールして圧勝状態だったのだが(ポルトガルは ひとつもこわいところがなかった)、アクシデントで相手GKが負傷退場にな り11-10となったところが分岐点だった。ここで日本は相手に怪我をさせ たことと望まずしてえらく有利になってしまったという状況に精神的にひるん だところが見え、逆にポルトガルはやけくそパワーが出て、ラフに攻めてきて それで形勢が逆転し簡単に追いつかれてしまった。あちゃー。  でもまあ相手は10人だしGKが素人なのだから大丈夫かと思っていると、 日本はそこまでで完全に足が止まってしまった。やばい。ポルトガルは濃厚に 漂う「決められる!」という気配にやけくそパワーが持続し、ドリブル突破に 命をかけて攻めまくる。南が止めまくるが、DFは突破を止められずいつ決め られてもあきらめるしかないという時間が続く。DFを替えてほしい。小野な んか停止してボールを受け停止したままパスを出してサイドを割っちゃうんだ からヘロヘロもいいところで(さすがにあんなのは初めて見た ^_^;)、見て いて情けない、なんで替えなかったのか分からない。DFはもう一人もいなかっ たんだろうか?  そんなわけで攻撃も単発で危険度がなくなってしまっていた。ポルトガルの シュートがかろうじてはずれていたのは、相手も疲れていて最後の最後が微妙 に狂ったおかげだろう。命びろいという気がつくづくした。  相手はキーパーが素人なのでまずPKを取れないと思うが、日本も本格的に ヘロヘロ、おまけに場内はポルトガル後押しムード。どうなるか分からない。 ―――おお、南が止めた。ふ〜〜〜っ。南は1次ラウンドではタコなんではな いかと感じたが、追いつめられるといいところが出るタイプらしい。  まあここはどちらにとっても運がない試合だったということで―――ポルト ガルは決められるチャンスを決められなかったのが敗因で勝敗に結局GKは関 係なかった・日本はあんなアクシデントで形勢が変わらなければもっと簡単に ゲームを終わらせられただろう―――かんべんしてもらって、仕切り直しで次 の試合はもっとすっきりと決めてもらいたい。
■ 99/04/17(土) 10:22:19 □ Red Light District
 0:18 pm 上野。心配するほどのこともなく、ホテルは簡単に取れてしまった。 快適なところと指定されてしまったので最初に考えていたところはやめ「広い」 と書かれたところにしたのだが、これが安くて助かった。場所も浅草に近い吉 原のどまんなかで、古い町家など面白いものが残ってるかもしれない。 ----------------------  少しも変わってなかったM父たちを迎え、俺ももう寝不足でヘロヘロだっ たのでなにはともあれホテルで休もうとタクシーに乗ったのだが、この運転 手が嫌な奴であった。まあけんかしても仕方がないと目的のホテルそばまで 送ってもらうと、「なんで外国の人とご一緒なんですか」と聞かれた。余計 なお世話だと思いつつお客だというと、「ここでいいんですか」といわれる。 なんだお前どういう意味だと思いつつ腹が立ったので金を払い追い払い、ホ テルに向かって歩いていくうちにそいつが言っていた意味が分かった。両側 にスーツを着た男たちが10mごとにずらりと並んでいる。  ん? んん? これはなんだと思いながらホテルを目指して歩くうちに、そ れぞれの男は店の前に立っているのだと判明。....... うわ、これは客引きだ、 シリアスなすけべタウンなのだ。吉原って江戸時代の花街じゃないの? 現代 も同じなわけ? しまったあああぁぁ。 「いやあ、なんというかバーが多いところなのかな、ナハハ」と顔をひきつら せつつせんだみつおとなってホテルに入ると、フロントは電気がついていなく て真っ暗で、出てきたのは留守番風よく分かってないおばあちゃん一人だけ。 とほほ。通された部屋も当然しょぼくれて古く暗く、全然 Web の紹介から期 待したものとは違っていた。日観連 Web にだまされたの一語。「うう、こん なところですまんです」とM父たちに謝る。3人は、いいよいいよしょうがな いと俺をなぐさめ、そしていうのだった。「トモがのっけから Red Light District(赤線という意味らしい)のどまんなかにあるホテルに連れてきてく れた、といい話のタネになるし」とバレバレなのだった。  つくづくがっくりしながら飯を食いに出、浅草寺を見に行く。浅草寺は遠目 で見ると大きくてきれいなのだが、近寄ってみたら全面的にコンクリートでな んじゃこりゃであった。戦災で焼けたんだろうか。ご本尊はありがたいものが 入っているんだろうが元々信心マインドがあるわけではないので、これじゃデ ザインの凝った建造物でしかなく、お参りをする気もせず仲見世に移動する。 ここはいろいろ妙なものがあって面白かったが、浅草寺は雷門も別になんとい うこともなし、なぜ有名なのかさっぱり分からず帰る。いやはや、やっぱり東 京で観光なんてやることないよなあと思う。他に東京にしかないものは買い物 関連と皇居だけだよな。明日どうしようと考えてしまう。天気も悪くなりそう だ。
■ 99/04/18(日) 20:56:19 □ 東京だよおっかさん
 さえないホテルからさっさと抜け出して皇居を見に行った。皇居そのものは 見えないので興味が湧かないのだが、外堀と内堀と石垣がよくできてるなと感 心する。この城は戦火に遭ってないはずだが、大砲ができるまではこれだけの 城があれば無敵だったのだろう。有名な二重橋を見て、これが、これが二重橋 だよおっかさん、記念の写真を撮りましょねとビデオを撮影する。  公園を日比谷方向に横切っていくと騎馬像がある。関西から修学旅行の中学 生がたくさんきていた。修学旅行というものが北米にはないせいで、なんでこ んなにたくさん子どもがいるのだとM父や通りかかりのアメリカ人が不思議がっ ていた。Mは、四国から念願の皇居参りにきて、もうこれでいつ死んでもいい といってるおじいさんに話しかけられたとのこと。なぜMさんに話しかけて話 が通じるとそのじいさんには分かったのだろうか(笑)。  その後「ギンザを見たい」というM父を案内して有楽町まで歩く。ビルの町 に過ぎないのだが、おおこれだこれだTVで見た風景だとよろこんでいる。日 本の驚異的な戦後復興的なノリで紹介されていたんだろうな。  ここで富士を見るために東海道にホテルを取ろうとするが、天気が荒れてい て富士は見えぬとのホテル情報にとりやめ、昨日直前で予定変更するまで決め ていた日本橋のホテルにイン。これが今度は想像通りの小さくこぎれいでナイ スなホテルで、最初からここにしておけばどれほどよかったかと後悔するのだっ た。 ----------------------  二日続けての歩きまくりにもう脚がパンパンになっていたのでここで休み、 東京最後の観光だといつわって秋葉原に出る。ここはアジアで一番有名な電気 街、外国人にも大人気、俺はちょっと捜し物があるから3人は適当にぶらつい ていてねサヨナラといって去ろうとしたのだが、M父が俺についてきてしまっ た。となるとじゃけんにはできぬので最新日本ハイテク事情解説者となってし まう。ビデオカムはデジタルなんだよ。すごいでしょ。このDVDが将来ビデ オにとって代わるかもしれない、すごいね。あと日本じゃGPSシステムが売 れているらしい、みんな金持ちあるね。M父はふーむと感心しておった。ほら 見ろ客をここに連れてきて正解だったろう、日本のイメージをつかさどるネオ ンも強烈だしね。  俺の買い物は激安メモリーだったのだが、M父がいては徹底サーチなどす るわけにはいかず、見た中で一番安かった中古を買っておいた。もっと安い のはあるだろうが、それでも長野値段の半額、これで動けば満足である。  今夜は早めに寝て夜のサッカーを見たいのだが、そううまく体は働いてくれ ず眠くならない。
■ 99/04/19(月) 11:08:19 □ M父夫妻の本領に接する
 結局5時まで試合を見てしまった。起こされたのが3時間半後、しんどいが 叱られちゃかなわないので眠くないフリをする。  東京駅に行き新幹線の時刻を調べてからカフェ。注文するときレジの前でM 父がぶすっと黙って立っているので、「M父が黙ってると偏屈な恐ろしい外国 老人そのもので皆恐れるからちょっと笑ってくれ」というと、「どうせわしは 日本語を話さんのだから無駄だ」といって笑っていた。本日からだんだん偏屈 爺の本領を発揮してきており、日本は物価が高い、これは不正だとわめいてい る。勝手にせよ。Mはまともに議論している。  メキシコ戦は日本のまったく揺るぎない勝利であった。試合が始まった途 端にこれはすぐに点が入るなと安心して見ていたら4分でゴール。その後3 0分に追加点を挙げ、あとは必死にファイトバックするメキシコをのらりく らりと交わして試合が終わる。メキシコの鋭いドリブル突破と放り込みに一 度もミスがなかったのがえらい。本当にAクラスなサッカーができるチーム だ。次の相手はパラグアイとなったが、これもブラジルを破ってすでにハイ ライトを過ぎたチーム、決勝まで行けるだろう。すでにベスト4なのである。 考えるとうれしくて仕方がない。 ----------------------  げ! 富士はやっぱり見えないなあ残念と新幹線から窓を眺めていたら、と んでもない数の煙突と煤煙の戦後風重工業死の町に突入し、それが富士市であっ た。うーん昨夜ここのホテルにこなくてよかった。まったく旅行というのは事 前に死ぬほど調べないと、ホテルからの情報だけではどんなところなのか分か りようもないな。こんなところに泊まっていたら、たとえ富士が見えても悲し くなるよ。  清水を過ぎるまで見続けたが結局富士はちらちとも見えず。Sパルスのスタ ジアムらしきものが見えただけであった。清水あたりというのは割合に特徴の ない場所だった。浜松のほうが光が多いという感じがする。M父妻がずっと Mから日本語レッスンを受けている。熱心なのはいいがわずらわしく、俺だっ たらとても相手をできんなと思う。Mは職業柄とはいえ教えるのに必要な根気 がたんまりあるんだろうな。そしてそれは常にぶつくさいうM父と暮らした経 験から養われたものであろう。  名古屋を過ぎ関西に入る。山の色がぜんぜん違うなと気持ちが浮き立ってく る。 ----------------------  11:20 pm。ぴうー。なんというか、M父もM父妻もまったくKVと同じだわ。 驚いちゃうな。世界中を旅行しているとのことなのに、うちの父さん母さんよ りもよその世界を知らぬと愕然とさせられる。俺が腹を立てているのに気がつ いて、Mはすまんすまんと涙を見せている。いや仕方がないよKVと同じだし、 あの年ではいまさら注意しても変わりはしないだろう。  M父はまあ偏屈爺さんぶりが売りだからおおむね無視したまに注意してやれ ば済むのだが(───博物館で江戸時代の公家の肖像画を見て「これはアート だろう。アートだな。だが同時代のミケランジェロに比べたらアートでもなん でもないではないか」とか言っている・苦笑───)、自分が無知と無神経さ から人をイライラさせていることに生まれてこの方気がついていないという感 じのM父妻のほうが、俺にはよほどたまらんのだった。旅館の畳を見て、「まだ こんなマットからカーペットに進んでないのね」などと言っているヒトって、 いったいなんなのだろう。..... というかなんなのかは明白で、これぞアメリ カ型(二人は1年の半分はフロリダ高級住宅地に住んでいる)右傾おじさんお ばさんそのもの、自分のところの文化が最高だと信じて疑ったことがない人々 なのだよなあ。俺がカナダで一番うまかった食べ物はレーズンブランだったと いったら気分を害してたしな。まあ日本のおじさんおばさんにもこんな人は多 いのだろうが、カナダで畳がないといって驚く人は明治時代にだっていないぞ。  しかし世の中うまくできたもので、この無神経人間2名はお互いになんにも 気がつかないので、まるで傷つけ合わないのである。「バカなこと言わないで よM父!」というのがM父妻の口癖なのだが、あなたもバカなのよと突っ込みた くなる似たり寄ったり夫妻なのです。他の人間とかかわり合いにならない限り 問題なし。ところがかかわり合わねばならぬのが娘とその夫のつらさであり、 そしていちばんひどい目にあったのがMの母、BRなのだ。M父に三行半を突 きつけるまで、よく彼女は25年も不毛な結婚生活に耐えたなと思う。  明日はお京さまに作ってもらったプラン通り清水寺から下っていこうと考え ていたのだが、Mが気を遣って二人を英語ツアーに出してしまったせいで、逆 に清水寺で時間を合わせて待たなければならなくなってしまった。清水寺を見 るだけで終わってしまいそうだ。ここまで遠征してきてこんなに不自由な旅に なってしまうとは、ため息が出てきて仕方がない。京さんに泣き言メールを書 きたくなる。がホテルに電話ジャックがないので寝ます。昨夜はまるで寝てな いのだ、考えてみれば。フラフラ。
■ 99/04/20(火) 08:49:19 □ 銀閣清水
 旅館の朝は早い。朝から部屋に大量の食物を供給されたので、腹が消化可能 状態になっていない。日本旅館に泊まったのは十年ぶりなのだが(ここが日本 旅館だとはMだけが知っていた)、常時仲居さんが入ってきて世話をしてくれ るので落ち着けない。なにからなにまでやってもらえてありがたいのだが、す べて自分でやったほうがラクではあるよな。京都は非常に湿気が多く、寝汗か きました。 ----------------------  いまだ定まらない計画をあれこれと心配していると非常に気分がダウンして くるのだが、まあ心配しても仕方がないとM父たちを英語ツアーに送り出し、 俺たちも出発する。お京さまにお勧めされたニシキ市場というところに行って みるとめちゃ幅の狭いかわいいマーケットで、変わったものが売っていて実に 面白い。日本一のタケノコ? だとか漬物だとかスッポンだとかなんだとか。 昨日味噌汁を飲んでその味と舌触りの違いに驚いたのだが、その味噌ももちろ ん売っていた。とても同じ食品だとは思えないようなテクスチュアのものであっ た。うーむ面白い。  このアーケードは新京極(のようなところ?)につながっていた。中学の修 学旅行で泊まった旅館の部屋からは、この新京極のアーケードの上に出られた のだよとMに思い出話をする。夜中にこっそりと起き出して、アーケードの屋 根で当時好きだった KISS の「デトロイトロックシティ」を歌って暴れたのだ。 すごいだろう。さらにここは田舎のつっぱり同士が「お前らどこからきたんだ よ、なめんなよ」とよく喧嘩をするところなのだ。すごいだろう。  ヒトの世話から離れていつものようにのんびりとしたことでご機嫌になり、 雲もなくなり空は輝いて、俺たちは大通りのバス停に飛び出した。そうさ。やっ てきたバスは銀閣寺行き。そうさ。今がそのときチャンスなのさベイビ、さあ 飛び乗るんだとバスに乗ろうと思ったのだが、待てよ料金をどうやって払えば いいのかわからない。躊躇しているうちにバスは孤独に走り去ってしまった。 なんで乗らないのだとMに非難され、いや君ね京都といえば世界的な観光地だ からそう簡単にコトは運ばないのだよと説明したのだが、チケットを取って後 で払うんじゃないのといわれる。そうなの? はたして次のバスに乗ってみる とその通りであった。  銀閣寺は高校の修学旅行以来の年月が経っても高所から見れば昨日と同じな わけで、少しも変わりなく美しかった。信じ難いほどの年月の間まったく同じ に手入れされ続けてきたのであろう庭の美しさに、Mはしみじみ感動してパン フレットにスタンプをしっかり押していた。田舎の中学生がMに「コインを交 換してください」といきなり話しかけてくる。日本の通貨して持ってないとい うとがっかりしていたが、一緒に写真を撮らせてくださいといってスナップを 撮っていた。こんな中学生もまだいるのか。日本も捨てたものではない。  哲学の道端にある洋館のレストランで昼飯を食べ、ふと裏庭に行ってみると 驚いたことに素晴らしい日本庭園になっていた。おおなんだこれは寺なのかと 聞いてみると、とある日本画家の屋敷跡を一般に開放しているらしい。すごい 庭だ。個人でこんな庭を持っていたなんて、なんたる生活。池を目の前に見な がら制作にはげんだのだろうなあ。夢のような生活。  そこから移動しM父たちと合流し清水を見たのだが、彼らと一緒にいるとな にしろ興味がないのがあまりにも明白で、俺の熱いハートも萎えてしまう。聞 くと朝のガイド付き散歩は楽しんだそうで、彼らの喜びは視覚にはなく情報に あるらしい。俺はといえば「清水寺は500年くらい前のもので、この木製の 舞台がスペクタキュラだから人気があるのですイヤハヤ」くらいしか言えない わけで、どう見ても情報不足であり(しかし他に寺というものに関して我々が 知るべきことがあろうか?)、おまけにその美しさは理解(appreciate)して もらえないのだから勝負にならぬ。  日が暮れ始めぼちぼち歩いて山を降りたのだが、古いものの味わいとか草木 の色や光の心地好さとか独特なものへの興味だとか、そういった抽象的な部分 は全部彼らの目からこぼれ落ちていくのだからその観光とは子供と同じであっ て、ウィンドウショッピングなどのモノでしか心を動かすことができないのだ なと思う。まさしくKV(ついでにM父妻は味覚もKV並みで、生まれてからこ れまで食べたことのない非西洋食に恐怖心を持っている)。もはや腹は立たな いけど京都でこれじゃ、この先長野に連れていっても肉を食わせる以外どのよ うにも接待しようがないわけで、まさしくKV。  帰るとお京さまから FAX が入っていたので電話をする。メールだと頭脳明 晰沈着冷静対比較陰博士不可能型美徳満載レディだと思っていたのだが、声を 聞いたら予期に反して素晴らしく明るく笑う方なので、俺はうろたえ毛唐はぜ んぜん駄目ですなにをしてもよろこんでもらえませんこの調子じゃ日程を短縮 するか斬るしかありませぬと攘夷志士となって怒りをぶちまけてしまった。M 父たちを捨て置いて京都の皆さんに会いに行けるかどうかは、まったく分から ない。とほほ。  Mと相談し、もう寺には興味がないらしいので明日は東寺のマーケットと新 京極でのみやげ探索でなんとかしのぎ、あさってはまた英語ツアーに送り出し て情報供給でしのぐことと方針を定めた。残る1週間はお互いに退屈地獄とし かいいようがない。絶望的。
■ 99/04/21(水) 09:33:00 □ 東寺のマーケット
 今日も引き続き好天、さわやかな4月。ホテルを移動して東寺に行く。マー ケットは想像以上の規模で広がっており、一同顔がにやけてしまう。Mはオビ とキモノを探すと張り切り、あちこちと歩き続けた。俺は特に欲しいものはな かったのだが見ているとなにもかもが楽しかった。今日は他にももうひとつく らい寺を見ようと思っていたのだが、M父たちは東寺をまったく見なかったし、 Mでさえもそれどころじゃないという感じで、結局マーケットの店々が閉まる まで歩き回っていた。戦利品はキモノ\300 にオビ\4000。オビは高かったが美 しいものだった。東寺は偉いお寺さんなのにご近所のお寺として立派に使用さ れていてえらい。 ----------------------  3:48 日本 2-1 ウルグアイ、日本がリードを持って前半を折り返せた。日本 のパスサッカーとウルグアイの強引なサッカーが火花を散らしている。先に点 を取ったほうのゲームになりそうな雰囲気が濃厚に漂う立ち上がりで、本山の 突破から首尾よく先制できやったと思ったのだが、放り込みの処理ミスで追い つかれてしまった。本山が上がった後をつかれて苦しんでいるので永井を下げ てDFを入れて欲しいと思っていたら、今までで一番動きのよかったその永井 がなんと1対1に勝ってゴールしてしまった。我慢して使っていた甲斐があっ たのである。でも後半はやはり替えてほしい、粘着力が足りない本山のDFを 勘定に入れないほうが攻撃が生きるのは当然なのだから。それにしてもすごい 攻撃力で、もう選手全員が俺たちはこの大会に勝って世界一になれるんだと信 じてやっているのが見て取れる。パスにもトラップにも突破にもディフェンス にも、必死とは違う気力がみなぎっている。  ともあれ双方ペースが速くかなりしんどいサッカーをやっているので、脚が 止まるのがこわい。攻撃力は上回っているがキープ率は五分、もう1点取って 楽にできるといいのだが。.....げげ! 本山を下げて4バックにした。絶句。 これじゃ攻撃力が5割減だぜ。そんなに長時間守り切れないよ。しかも意図し たことができずバランスが崩れ押しまくられる。まずいまずいまずい。と思っ たらなんとその交代した稲本を12分で下げてまた3バックに戻した。うあー 完全な無駄交代! こりゃまずいー。これは最大のピンチを迎えている。
■ 99/04/22(木) 11:06:33 □ 古本と京都びと
 結局その後30分を完全にしのぎ切って勝ってしまった。うーん、強い。こ こまで大きな采配ミスがあってもしのげるところが強い。次の試合は小野が出 られないので、45分休んでフレッシュな本山のチームとなって攻撃していく のだろう。それは見る側としてはじつに望むところだ。  Mの洋書屋をチェックしてから知恩院に行く。階段の作りがまるで城のよう なのが美しい。裏門から入ったらしく、信者らしき人々とお坊さんが急がしげ に駆け回っているところに出くわしてしまったのだが、見ているとそれが面白 かった。京様の解説通り、全国から信者が集まっているというのがまざまざと 分かる。表に回り本堂に入ってみると大量のお坊さんが雅楽に合わせてそろり そろりと歩いており、なんだか全然分からないがなにかとてつもなく重要なこ とをやっていると理解しすごいすごいと興奮する。  がよく見てみると寺の内部は葵一色に塗り上げられており、これは仏教の寺 というよりは徳川の寺なのではないかと推測する。どうもそうみたいだぞとM に伝える。「はは〜ん、どおりでおかしいと思ったわよ」。だから入り口がお 城みたいだったわけだな、しかるに。「そうね、うちは真田だからライバルだ わね」。その通りだ。いや須坂は別に松代とは関係ないのでその通りじゃない のだが、心情的にはその通りなのでとたんに我々は知恩院に対してケーベツ的 になるのだった。俺なんか禁煙の境内で知らずにタバコ吸っちゃって警備員に 怒られちゃったくらい不遜になってしまった。  そこから祇園に出、「都をどり」を鑑賞する。これは思ったよりも面白いだ ろうと思っていたらその通りだった。歌声や楽器の音が楽しいし、踊る舞妓芸 妓さんたちの所作がいちいち面白い。彼女らのステップにはアイリッシュダン スにも通じる独特さがある。1時間食い入るように見つめているうちに、完全 にその音と所作が身についてしまった。さあこれからどこ〜にいこうかあ(ド ンドン)といいながら建物を出る。  帰り道に古本屋を見つけて入ってみると、英語の本がかなりあった。それを チェックしていたMが、H.G.ウェルズのなんとかいう大著を見つけて興奮し始 めた。「こここれは!」「欲しいの?」「これは、いわゆるコレクターズアイ テムだわよ」「値段を聞いてやろう。げ、上下巻6000円だって」「そ・そ・そ れは! 安い!」といって購入。なにか非常にすごい買い物らしい。というこ とはそれをしかるべきところで売れば利ざやを稼げるではないか。よしよし。 俺もすんばらしい京都の百年前写真集があったので、父さん母さんのおみやげ にと購入する。 ----------------------  夜岸田さん針さん京さんと会う。岸田さんは想像したよりもさらにフレンド リーなガイで、針さんは想像したのとぜんぜん違うジェントルマン、そして京 さんは想像にたがわぬ美しきレディであった。俺はなんか旅行中でハイになっ てるせいとM父夫妻に対する怒りが積もっていたせいで、えらい疲れてたのに 喋りまくっていた。愚痴を聞かせてしまったかしらすいません。しかし会えて よかったよかったと北米ビジネスマンM父型の握手をしてさようなら、また会 いましょう。  これで今回の旅行の全日程が終了、プランの通りにはならなかったがいい旅 行でした。
■ 99/04/23(金) 12:29:33 □ We're going home
 岐阜から木曽まで、そして長野盆地に出てからは実に景色がよかった。長野 に入ると桜もまだ咲いている。よしよし。帰ったら PC に SDRAM を仕込んで 大高速化だ。こっちの電車のほうが新幹線よりも旧あさまよりもずっといい旅 だな。 ----------------------  家に着くや否やメモリをインストール。バンクを間違えたが挿し直したらな んの問題もなく起動した。動作速度に変わりはないが、超大キャッシュが効い てアプリケーションの起動が速い。一旦使ったアプリケーションだけじゃなく て、サラの起動も速くなるんだな。  それからさか田レストランに飯を食いに行き信州牛を堪能する。肉の味はも ちろんよろこんでいたが、元肉屋だったM父は日本じゃどのように肉を仕入れ どのように処理するのかということに非常な興味を示していた。専門用語だら けになり俺は訳せなくなるのだが、父さん母さん兄貴は俺などいなくても肉の 話が通じるのであった。  それで盛り上がったM父がまたもや本領を発揮し、俺たちは頭を抱える。 「ビジネスはうまくいってるのか」と兄貴に質問したのでそんな訊き方するな よと訳さなかったのだが、それに気づいていたらしくその次のくだらないジョー クを略したときに「全部訳してないな」と言い出した。「いや、そのジョーク は日本語にならないからさ」「いや訳してくれ。訳す部分を選ばないでくれ」。 つまらないから略してますともいえないこのつらさ。  父さん母さんのところでお茶をもらいおいとますると、「もっといたかった のに何故こんなに早く帰ってくるのだ。帰ってきてもトモはコンピュータで遊 んでるだけだしお前は皿を洗ってるし、どうなってるんだ」。なんで俺があん たをエンターテインせなならんのやと京都弁で思い聞き流していると、「お父 さんが疲れていて眠りたそうだったから早く帰ってきたのよ」とMがいう。す るとM父のいうことには、「本当だな。本当だな、俺がトモのお父さんにそう だったのかと聞いていいんだな。後で俺は本当に聞くぞ、いいんだな」。―― ―Mはもう全身脱力し、その馬鹿ばかしさにまた夜涙を流す。M父妻は日本の 家って本当に狭いのねとショックを受けたような顔を隠そうともしないし、こ んなモンスターとこれから1週間暮らして、私たちの精神は持つのでしょうか (泣)。

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