伝説の CONCACAF チャンピオン

From: Tomohisa Sakata
Newsgroups: fj.rec.sports.soccer
Subject: RP: CONCACAF Gold Cup: Canada - Colombia
Date: Mon, 28 Feb 2000 09:31:34 GMT
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  ■□ サカタ@カナダです

 ◆ CONCACAF ゴールドカップ決勝:カナダ対コロンビア

  決勝です。雨です。雨といえばカナダです、なぜならばカナダチームは冬中
 雨の多い BC 州で練習しているからです。ついにこの日がやってきました。

  昨日のニュースで、オジェック監督のインタビューを聞くことができました
 (彼は英語ペラペラだった)。「準決勝がなにしろ最大のヤマ場だったんです
 よ。あれに勝つと負けるとでは、次につながるものが大違いですから。ですか
 ら明日の決勝は気楽にいけます。とはいっても勝ちたいに決まっていますがね」。

  さてゲーム、雨のスタジアムはガラガラに空いていますが、コロンビア応援
 団の方が多い様子です。頼むから前みたいに自陣深くに引っ込まないでくれよ、
 カナダ。何点取られたってかまわないから、前に出て行くサッカーを見せてく
 れ。できるに決まってるよ。

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  試合開始、おお見よ! カナダのDFからFWまでがまんべんなくフィール
 ドに散っており、ちゃんとフォーメーションになっています。FWと中盤がこ
 つこつと相手にプレスをかけています。実に整然とした構成。引きっぱなしだっ
 たこれまでのゲームとはまるで別物。私が切望していた、自信を持ったカナダ
 が最初からピッチに立っています。そう、これが見たかったのだ。震えてくる
 ような気持ちがするぜ。

  当然コロンビアの方がうまいのでパスをつないで様子を見ていますが、カナ
 ダのプレスが程よく効いているのと、おそらく雨に濡れた芝の影響もあるので
 しょう、今一つリズムに乗れないパス回しの彼ら。コロンビアがシュートに持
 ち込んでもカナダDFはきちんとコースを切り、GKフォレストが仕事をする
 ところまで進撃を許しません。そしてミスを誘ってはカナダがボールを奪い、
 きちんと全員で反撃をしている。ベリーナイス。

  15 分、カナダ攻撃陣が 1-2-3-4 本ショートパスをつないでシュートまで持っ
 ていった! 点には結びつかなかったけれども華麗。カナダ代表を見ていて、
 こんな美しい攻撃は初めて見た気がします。

  カナダが攻撃に上がった裏をコロンビアがカウンターで取ろうとしますが、
 慌てずうろたえず整然と自陣に戻るカナダ。すばらしい。カウンターを受ける
 くらい選手がリスクを冒しているのもうれしいし、そこからの戻りが非常にい
 いので安心してみていられる。このカナダ選手の雨(芝状態やや重)における
 走力は、やはり南国から来ている選手たちの比ではないのが明白です。しかし
 この落ち着きはいったいなに。やはり、負けても nothing to lose だぜとい
 う心意気が彼らを落ち着かせているのでしょうか。

  組織がきちんとできた、かつ怠らないカナダのDFのためにほとんど有効な
 仕事をできていないコロンビアのFWが画面に映ります。うわやっぱりFWは
 アスプリアだったか。彼ほどの鬼FWにまったく仕事をさせていないのだから、
 カナダDFはいい仕事をしております。

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  30 分を過ぎた頃からエンジンがかかってきたコロンビア。スピードを増し
 た攻撃に、振り切られまいと走るカナダ。依然カナダの守りはソリッドで、失
 点の危機は感じません。が、攻撃を止めたところから押し上げる力が弱くなっ
 てきた。2弾3弾と波状攻撃を受けることが増えてくるカナダ。いかん。オジェッ
 ク氏に策はあるのか。

  37 分、クリア気味の長いパスを追うカナダFW、そのままDFを交わして
 GKと1対1になった! 打ぅてエエ〜! ―――弱い〜! がその跳ね返り
 がまたカナダ選手の前に、打ぅてエエ〜! ―――弱い〜! ......が、得点
 にはならなかったものの今の処理を見ていると、コロンビアDFとGKは相当
 ヘボであります。あきらめずにコツコツと攻撃を重ねてさえいけば、カナダが
 点を取っても私はまったく驚きません。

  そして押し込まれていたのは一時で、またカナダが押し返してイーブンな戦
 いに持ち込んでおる。えらい。ここまで実際、ボール支配率に差はほとんどな
 い感じであります。消極性がかけらも見られず、まさに CONCACAF チャンピオ
 ンの風格が漂っています。いやほんとに。

  45 分、カナダの軽いジャブ攻撃が続き、CK。得意のセットプレーのチャ
 ンスに、後ろから大男のカナダキャプテン deVos が、コロンビアDFを呑み
 込む鯨のように飛び込みゴォオ―――ル! 決めてくれました! これは前ま
 でのマグレっぽい得点とは違い、きちんと攻撃した結果のセットプレー。応援
 していた方も非常にうれしい得点です。やってくれたわ。そのままハーフタイ
 ム。

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  すばらしい。ここまでは文句の付けどころがない。コロンビア全体が非常に
 冴えないのは事実ですが、センターライン付近でプレスとシンプルなパスを有
 効に使ってコロンビアと五分に渡り合っているカナダを見ていると、カナダ選
 手の意外な能力の高さを感じます。カナダにはファンタジスタはいないけれど、
 全員の一つ一つのプレーがシンプルで無理がなく、したがって危険なミスがほ
 とんど出ず、プレーが切れ目なく常に次につながっています。

  スペースが十分あるところにパスを送り、プレスが遅いコロンビアの間隙を
 衝いてきちんと前に運んでいくカナダのサッカーは見ていてストレスを感じず、
 気持ちがよい。いやほんと木曜日までとえらい違いで(笑)、どこか北欧の中
 堅サッカー国を見ているような気にさせてくれます。そう、準決勝までは『サッ
 カー弱小国カナダ』というひ弱な匂いがすごくしていたのだけれど、今の彼ら
 は違うな。戦う11人のプロフェッショナルフットボーラーだな。コロンビア
 相手にぜんぜん負ける気がしない。1対1でも、チームでも。

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  後半が始まっても、カナダのプレーに変化は見られません。立ち上がりに攻
 勢をかけようとするコロンビアを、必要十分なプレスで受け止め押し返してい
 ます。コロンビアのプレーにも変化はなし。今日のコロンビアには本当にいい
 ところが見られない。FIFA ランク 24 位の力を発揮しているとはとても言え
 ず、コロンビア応援団も声の出しようがないといった感じ。彼らの力はこんな
 ものなのか、それともカナダのよさに完全にボタンを掛け違えているのか。

  後半 15 分すぎ、ボールを追うカナダのスピードにやや衰えが見えてきまし
 た。ミスキックした選手を指し、「今の彼のプレーは彼らしくないな、もしか
 したら脚に来てるのかもしれない。はっきりとは分からないけれど」と解説の
 前カナダ監督が心配そうにつぶやきます。ううむ、オジェック氏は交替要員を
 考えているかどうか。

  後半 25 分、脚がつったカナダ選手も出てきて心配がつのってきた頃、カナ
 ダ選手がコロンビアDF陣をブリリアントに突破! 飛び出すGKは間に合わ
 ず、手でカナダ選手を引っかけて倒し、PK! ―――こ、これはすごい。本
 当に2点目が取れるのか。見ている方が息を呑むこのPKを、FW Corazzin
 が、決めました。ズバンと剛球で決めました。2-0。

  すごい。今のも完全に相手の守りを崩した結果のPKだった。カナダがコロ
 ンビアを相手に五分の戦いをし、実力で2点取ってみせたと、こうして書いて
 いても信じられないような光景でした。解説の前監督が言います。「―――い
 や、これはなんというかあの、カナダが勝つような感じだね。いや早合点して
 口にするとアレかもしれないのでアレなんだけども......」。代表監督経験者
 のくせしてなにをゆっとるのだと笑いつつも、私の心臓もドキンドキン、ほん
 とかほんとかといい続けています。

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  そのまま一進一退が続き、走りでコロンビアを圧倒してきたカナダの疲れが
 気にかかります。30 分、突破から初めて危険を感じさせるシュートを見せる
 コロンビア。このあたりからカナダが疲れから押し上げられなくなってきます。
 フレッシュな脚を入れてほしい、誰がベンチにいるのかは分からないけれど。
 ペスキは肉離れで出られないといっていたな。

  35 分、コロンビアのFWがドリブル突破、反転の遅れたカナダDFの脚が
 引っかかり、PK! ―――うーん! まあ今のは仕方がない。同点だったら
 取られないようなPKだったけど、ここで1点くらいは仕方がない。時間的に
 大丈夫。見ている方が動転してそうつぶやいていると、オーマイゴッド! フォ
 レストがまたPKを止めてしまいました。お前はお前は、お前は山か。その巨
 体を生かし、1人でゴールマウスをあらかた埋めてしまう男。すごすぎる。カ
 ナダの全選手が、すばらしすぎるこのゲーム。

  残り 10 分、PKの判定に抗議したオジェック監督が退場になってしまいま
 す。が、ここまで2点を大事に持ってきたのだからもう大丈夫。彼は笑顔を見
 せることにより皆にそう伝えながらベンチを後にします。スタンドに消えよう
 とするオジェック監督に1人のファンが駆け寄り、彼の手を握り締めてちぎれ
 るほど握手しています。感極まっているカナダのファンだ。そう、本当にえら
 いことをやってくれたわ、この人は。

  そしてカナダは最後までゲームのコントロールを失わず、そのまま試合終了。
 カナダサッカー史上初めての、国際タイトルが国の頭上に輝いたのです。

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  すばらしい。非の打ち所のないゲームを、このフットボーラーたちとオジェッ
 ク監督は見せてくれた。この試合を見ていたら、カナダの子供たちも興奮して、
 きっといつまでも言い伝えることだろう。自分は今日一つの「伝説の試合」を
 見たんだな、そういう気持ちがしました。

  試合終了と共に雨が上がり、選手たちが抱きしめ合い、カップとメダルが手
 渡され、セレモニーが続きます。この試合には怪我で出られなかったペスキソ
 リドも輪の中で、本当に嬉しそうな顔をしている。ほらね、やっぱり無理をし
 てでも自国のナショナルチームに戻ってきてよかっただろう。

  その光景を眺めながら、前カナダ監督がつぶやきました。「ああ。彼らは皆
 このままヨーロッパの所属チームに直行してしまうんだよね。残念だなあ。こ
 のままチームが、まとまってカナダに凱旋帰国できたらどれほどすばらしかっ
 ただろう」。ああそうだね、そうさせてやりたかったね。

  プロリーグがないことを残念がる前監督。だけれども、これはともかく巨大
 な第一歩だよ。こうしてインターナショナルな活躍を見せてくれれば、カナダ
 国民だってもっとカナダのサッカーに目を向けてくれるし。これからはメキシ
 コやステーツにも、そうそうイージーな思いはさせないでやれるからね。

  しかしこれほどのポテンシャルを持ちながら、なぜここまでカナダはこれを
 見せることができなかったのか、オジェック監督に聞いてみたい。準決勝の残
 り 20 分もすばらしかったけど、今日はそれ以上のものを 90 分見せてくれた
 のだから。準決勝を勝ったことで精神的な上積みがあったのは想像できるけれ
 ど、トバゴ戦までのあのていたらくと今日との、この劇的なまでの差はなんだっ
 たのだろう。そこを明らかにしてほしい。が、カナダの現場リポーターはあま
 り細かいことは気にならないタイプらしく、おめでとうありがとうワンダホー
 というばかりで特になにも監督からは聞けずじまいでした。

  表彰式には FIFA のブラッター会長と鄭夢準副会長が来ていました。やはり
 ああいう人たちが来ているのを目にすると、改めて単なるローカルカップじゃ
 ないんだなと重みが感じられる。カナダのTVは彼らが誰だか分かっていなかっ
 た感じでしたが(笑)。―――は。実に久々に、インターナショナルマッチの
 興奮に身を焼かれました。いい日であった。


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