サッカーカナダ代表チームの紹介
サッカーの、大国までとはいわないが、せめてなりたや中堅に


 カナダ代表はコンフェデレーションカップに向けてのトレーニングマッチとして、エジプトでの4か国トーナメントに出場した。カナダにとってはさんたんたる結果に終わったWC予選 (1勝6敗3分/5得点20失点) 後初の試合となり、前浦和レッズのホルガー・オジェック監督が選ぶメンバーが注目された。
【エジプト4か国トーナメント: カナダ代表メンバーと所属チーム】
(GK)
クレイグ・フォレスト            ウェスト・ハム (英プレミアリーグ)
パット・オンスタッド            ダンディー・ユナイテッド (スコットランド)
(DF/DMF)
ジェイソン・デヴォス            ダンディー・ユナイテッド (スコットランド)
マーク・ワトソン                DC ユナイテッド (米 MLS)
ケヴィン・マッケナ              エネルギー・コットブス (ブンデスリーガ)
カール・フレッチャー            ハンプトン・ローズ (A-League, 北米 D2)
リチャード・ヘイスティングス    インバネス (スコットランド D1)
ポール・フェンウィック          ハイバーニアン (スコットランド)
タム・ヌサリワ                  ニュールンベルグ (独 D2)
(MF/AMF)
ポール・スタルテリ              ブレーメン (ブンデスリーガ)
デイビッド・サウザ              インバネス (スコットランド D1)
ニック・ダソビッチ              セントジョンストン (スコットランド)
ジム・ブレナン                  ノッティンガム・フォレスト (英 D1)
ダニエル・イムホフ              サンガレ (スイス)
マーク・バーチャム              ミルウォール (英 D2)
アンテ・ジャジック              ラピッド・ヴィエナ (オーストリア)
(FW)
ポール・ペスキソリド            フルハム (英 D1)
カーロ・コレズィーン            オールダム (英 D2)
ギャレット・クッシュ            Hoenefoss (ノルウェー)
ドウェイン・デロザリオ          サンホセ・アースクエイク (米 MLS)

 このメンバーが予選時から大きく変わっていないことから、カナダは基本的にこのチームで日本に渡るものと思われる。フォーメーションは 3-5-2 スイーパーシステム。

 韓国が優勝したこの4か国トーナメントでカナダは、対エジプト戦 3-0 と厳しい再スタートを切ったものの、次戦で主力不在のイランをシャットアウトし、1-0 と一応の成果を出している。CONCACAF (北中米カリブ) チャンピオンの座を得た 2000 年ゴールドカップ時のフォームを取り戻すことは容易ではないだろうが、そもそもゴールドカップでも1次リーグでは韓国相手に四苦八苦するような状態で出発しつつ、最後にはメキシコ、トリニダード・トバゴ、コロンビアを沈め北中米を唖然とさせたのがこのチーム。今回どれほどの力を見せられるのか、近年にない CONCACAF 地区以外の大会でもあり、おそらく本人たちにも分からない。

【中心選手の紹介】
◆クレイグ・フォレスト (GK, 33 歳, 英プレミアリーグ ウェスト・ハム)
 このチームで最も知られている選手は、カナダ初の国際タイトルとなったゴールドカップで大会 MVP に選ばれたGK、フォレストだろう。タテヨコに広がる雄大な体躯とそれに似合わぬ機敏さで常に安定したセービングを見せ、チームにはかり知れない力を与えている。ゴールドカップでは準決勝・決勝でのPK阻止を含めシュートを止めまくった彼の姿が、チームとファンの胸をわし掴みにした。どんなグレイトセーブにも淡々としたその風貌が、カナダの侍風で泣かせるのだ。

 オジェック監督は否定しているが、WC予選でカナダがあっけなく敗退してしまったのは、彼がヘルニア手術のためチームに参加していなかったせいもあるだろう。カナダのファンは、「フォレストこそカナダのロナウドだ」とまで言って彼の不在を嘆いていたのである。FWやMFではなくGKが救世主だというのが、カナダのつつましさを表していて愛さずにいられない。エジプトではイラン戦で1年ぶりに代表としてピッチに立ち、変わらぬ好セーブでシャットアウトを記録した。

◆ポール・スタルテリ (MF, 24 歳, 独ブンデスリーガ ブレーメン)
 独ブンデスリーガ・ブレーメンでスターティングメンバーとしてプレーし、UEFA カップでも2得点を記録している、現在カナダで最もバリューの高い選手。ファンがその力に気付く前からオジェック監督は彼を重用し、彼はそれに応えてきている。プレースタイル的には指令塔型ではなく、プレーをシンプルにつなぎ、強い体を生かして自らもゴール前に飛び込み活路を開くタイプ。

 ちなみに彼はチームで韓国代表イドングクの同僚なのだが、一緒にエジプトの大会へ向かう飛行機では、彼がビジネスクラスでイドングクがエコノミーだったそうである。イドングクがぼやいていたそうである。カナダ協会は韓国協会よりも意外に選手待遇がよいのであろうか。泣くなイドングク、韓国経済もいずれ上向く。

◆ジェイソン・デヴォス (DF, 27 歳, スコットランド ダンディー・ユナイテッド)
 所属チームと代表の双方でキャプテンを勤め、ワトソンなどソリッドなDFが揃うカナダ守備陣でも抜けた信頼感を感じさせる選手。ヘッドの強さは驚異的で、セットプレー時にはカナダ近海鯨のように相手選手の上空に覆い被さり、ボールを確実に捉えてしまう。コロンビアを破ったのが彼のヘッドによるゴールであった。得点力の低いカナダにとってDFが上がるセットプレーは大きな資産であり、いいボールが入れば日本はデヴォスやワトソンの高さに苦しむはず。日本の攻撃陣も、単調な攻めではデヴォスらを破れないだろう。

◆ポール・ペスキソリド (FW, 30 歳, 英 D1 フルハム)
 やんちゃな風貌とそれに似合った小気味よいプレーで、代表と英ディビジョン1で長く愛されているペスキ。やや小柄な体格を生かした切れのある反転とダッシュが売り物だが、ラフプレーでファンを嘆かせることもある。近年はよりフィジカルに優れたクッシュや若いデロザリオがFWに使われるケースもあるが、全体に押し上げの弱いカナダでは、どのFWも目立った仕事はできていないというのが正味のところである。

【チームの目指すもの】
 日本との相性を考えると、ジム・ブレナン、ダニエル・イムホフの左右両ウィングも能力は高い。日本を離れて久しいオジェック監督が弱点を突けるほどトルシエ・ジャパンをスカウトしているかは不明だが、シドニーでのアメリカのように、優れた脚力にものをいわせて日本のゴール横を突くプランをカナダは立てるべきだろう。それがクッシュら大型のアタッカーを生かすことになり、日本にとってもチャレンジになる。

 オジェック監督以前のカナダには、あきらめず走って走ってボールを追うだけで特にスタイルはなかったのだが、ゴールドカップの後半には初めてそこにチームとしての形が見えていた。コロンビアを破った決勝では、程よいプレスでボールを奪い、無理のないシンプルなパスでつなぎ全員でボールを前に運ぶという、かつてなかった整然とした美しいサッカーを見せてくれたのである。

 まとまった期間代表選手を欧州から招集できない飛び飛び日程のWC予選では、とうとうそれを再現できずじまいでカナダは終わってしまったのだが、ゴールドカップと同じ集中開催の日本ではあの組織サッカーがもう一度見られることを期待したい。現時点の力量と状態を考えると、カナダが今回世界にサプライズを発信することは想像しにくいが、『サッカーの、大国までとはいわないが、せめてなりたや中堅に』と言っている謙虚でやさしいカナダファンに希望を与えてほしい。世界が思っているよりもずっと多くのサッカー代表サポーターが、カナダには住んでいるのである。

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坂田知久 (サカタ トモヒサ)
カナダBC州在住、翻訳業
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(スポナビ・コンフェデレーションズカップ特集に掲載されたチーム紹介記事原稿)

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