萌が今にも自力で動き回りそうな気配を見せている。家は相変わらず見つか らないので、当座は模様替えでしのがなければならない。昼間あれこれと考え たのだが、俺のデスクと PC 環境をスペアルームにしまいこむならば、MKの ようにラップトップで母艦にアクセスするのが唯一の生きる道だよなあ。メル と萌から隔絶して暮らすわけにはいかんし、PC からも離れては生きられない。 読書リソースがすべて PC にある現在は特に。
Pさんに相談して調べてみると、$1000 クラスがあるらしい。時代は 変わった、白黒 486 から。
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夜萌のスイミング。萌はのっけからニカニカだったのだが、頭頂部からの潜
水に初めてトライし(させられ)、それで何度か泣きそうになっていた。あの
ポジションだと息を止めるタイミングが掴めないのか、それとも頭を抑え込ま
れるのが嫌なのか。後者かもしれない。誰だって後頭部を押さえつけられ水に
顔を入れられたら嫌だよな。まあレッスンは次回で終わるが、俺たちは独力で
時間をかけてのんびりやっていけばいい。レッスンを継続することも可能だと
いうが、別に早く泳げるようになってくれとも思わないし。こうして遊べるだ
けで楽しいわい。
昨夜からまた萌の歯生え再開。今日ひどい絶叫泣きになったのは一度で済んだのだ が、どうやら
【歯が不快 → 不快を癒すためにおっぱいがほしい → 歯が不快 なのでついおっぱいを噛んでしまう → おっぱいから引き離されて身も世もな い絶望 → Mも噛まれるおそれから固くなる → 固さが萌に伝わり、もうおっ ぱいを差し出されてもリラックスして飲めない】
―――という最悪のサイクルに陥るようだ。相互不信に陥る部分は母子とも に悲しみのどん底にあって、見ちゃいられない。俺も一緒になってどうにかこ うにか萌をなだめすかし笑わせ気分を落ち着かせて、最終的にはおっぱいを飲 ませることに成功した。ふー。まあこれは一過性のものだ、耐えていくしかな い。
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イピ・ユーム氏『宙導師候補生イピ・ユーム』読了。面白かった。かなりプ
ロットが複雑な物語でところどころつながりが分からない部分があるのだが、
なにかが書き漏らされているような印象はなかったのでいつか再読すれば分か
るだろう。
この物語の面白さの一つに学術都市をつかさどるコンピュータらしきものが ある。あらゆる宇宙のあらゆる知識を集積しているらしいのだが、そこから分 岐する個人用端末のインターフェイスが面白い。そいつは小鬼となっていて、 会話形式でコマンドを実行させるのだが、その会話の語彙やスタイルをユーザー が微調整して使いやすくしたりするのだ。その調整が悪かったり、あるいは小 鬼=シェル自体の作りが悪かったりすると、不効率で使い物にならなかったり するところが楽しい。
また、集積したあらゆるデータから歴史上人物○○の像を描いてホログラム で喋らせよなんて命令ができるのだが、このへんのメカニズムも論理的にでき ている。ここらが突拍子もないものにならないのがこの作者の非凡なところで、 読者は「なるほどよくできてるな」とその想像上の機械に感心してしまうので ある。作者イピ氏は、想像力が豊かなのはもちろんのこと、その想像を頭で逃 さず捉えて、整合性のあるプロダクトを生産する力があるのだ。この生産性と いうところは何人にも備わっている力ではないと思う。
イピ氏『古代のナガ』『イピ・ユーム』について電子本MLに書評を投稿しようと思うのだが、 書評って難しいなと思う。よく書く音楽やスポーツのことならば、ある一瞬の感動を 書き切ればそれで気持ちはすっきりするのだが、本というのはなにぶん長い。 さらに一番言いたい部分、すなわち感動した部分でどう感動したかを書いてし まうと、次に読む人が筋を知ってしまい迷惑をするわけで(笑)、難しいもの だわい。
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しかしこの頃の萌の発育振りはほんとにすごい。両手を使ってボールを2個掴みガチ
ガチと当てて音を楽しんだり、そのまま手でクラップをしたり、抱いてやれば
こちらの肩をパタパタとパットしたりで、手を自由自在に使っている。また、
数日前から座った位置から右脚を横に開き前にバタリと倒れるので、これはハ
イハイをしようとしてるのかと思ったら、なんとそれは自力で立ち上がろうと
しているのであった。バタリと倒れる寸前に俺が脚を入れて支えてやったら、
実際立ち上がってしまった(笑)。すごいなほんとに。
MとM母BRが PoCo へ家を見に行く。最も町から遠い Lincoln には俺は住みたくないので行かなかったのだが、帰ってきた二人は気に入った、中を見るアポを取るかどうか 決めてくれという。ほかに3組の家族が見に来ていて、マーケットは今や動き 始めているわよと。追いつめられた気分。
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夕方SHとMKも来訪。MKにノートを持ってこさせ、LAN
についての講義をしてもらう。ラップトップの液晶は、ややギラギラしすぎる
が T-Time を読むにはまったく問題なさそう。LAN はどういうデータ構造がい
いのかと聴いたのだが、Windows の場合デスクトップ PC にあるアプリケーショ
ンを起動すると、レジストリの問題で、ちゃんと動くときと動かないときがあ
るのだそうだ。なるほど。デスクトップにあるものすべてを使いたいわけでも
ないので(必要なのは書き物読み物&ネット環境)、アプリケーションはそれ
ぞれにインストールし、データだけを共有という構成がよろ
しいようだ。LAN のことを考えていると、高級なパズルのようで気持ちが弾む。
朝から昨日の家のことで叱られる。最初から Lincoln がいやなのにBRに 期待させてがっかりさせるなんてひどいわ。いやすごくいい家なら俺も見に行 くよといったが、実際不便な Lincoln パークになんて住みたくはないという のが本音なので言い訳にはならず。しかもその家はもう売れてしまっていると のJFの知らせ。あー。とにかくMを納得させる家を見つけるしか この窮地を抜ける道はない。
1) 買い物とMKの通勤至便
2) よい庭
3) 平らな場所
この3点を満たしそうなものをバーナビ・コキットラムから手当たり次第に ネットでリストアップしMに見せたのだが、どれもどこかやはり条件が欠けていて、すでに彼 女が落としたものであった。困った。ここひと月は、家のことでけんかばかりしている俺たち。Mが泣いている。困った。
目が覚めたとたんに家のことが気にかかりサーチを開始する。このことが片 付かない限り、俺たちに心の平穏はない。Mも俺のそんな表情に気がついて 悪く思っているらしく、萌に「今日家が見つかれば、お父さんもお母さんを許 してくれるかもよ」などといっている。
今日はたまった maybe ハウス9軒を一気に見て回る予定。
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3:52 pm、現在 Lincoln Park。PoCo エリアの全家を見た。さすがにサーチ
に慣れたからか、今回はどの家も見どころあり。
どれもうおおと飛び付くような家ではないが、悪くない。Mはどれもアポを取っ て中を見てみたいという。だがすでに俺たちの目の前でアポ客がいたくらいで、 競争は激しい。ほんとうに行く先々で同類がうようよしておった。つい先月ま では家を探してるのは俺たちだけだったのに、あっという間に売り手市場になっ てしまった。
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帰ってから、さて6軒のうち「アポを取って、気に入ったらオファーを出してもいい」のはどれだとずっ
と考えているのだが、やっぱりどれも決め手に欠けるなあと前と変わらぬ躊躇
を感じる。あえていうなら買い物に不便のないエリアか。
家のことを考えていると心配と不安で落ち込むばかりなの で、夜はPMが送ってくれたKNちゃんの「こちら亀有公園前派出所」を読み ながら早々に寝る。子供の頃は気付かなかったが、ページの隅 々まで書き込まれた日本の町のディテールが楽しい。交通標識さえ懐かしい。 KNちゃんがバンコック在住中にこれを買い揃えた気持ちが分かるような気が する。
ここに描かれているような、プラモデルを作ったり駄菓子屋に通ったり川 に魚取りに行ったりの子供生活を俺は送ったわけだが、萌は PoCo かどこかで 大きくなるのだろうか。よくも悪くも、俺とはずいぶん違うなあと思う。
3軒の家を見に行く。T通りにはなにも驚きはなし。全体が明るくて、庭が小きれい。がスイート(BRとMKが住む1階のキッチン&バス)を作るとなると大工事。G通りは、全体にT通りよりやや暗いが2階は思ったより広く間取りがよくて、庭がすっきりして巨大なシダーツリーが美しい。がスイートを作るとなると間取りが思い付かない。
そしてK通りがすごかった。庭に張り出した巨大なサンルームをメインに 上下左右に家が継ぎ足してある。うわこんなところにも部屋があるぞ! やや ここはバレエスタジオじゃないか! そして家の最上階はなんと風呂! と家 の中を歩いているだけで笑ってしまう遊園地であった。修繕費と暖房費を考え ない大金持であったなら、買ってしまいたいくらい面白い家であった。が買って修理するだけで全財産が消えてなくなってしまう。維持費がどこにも残らない。とても無理。
というわけで、G通りにオファーを出すことになった。1階部分を除く間取 り、庭、場所とすべてが十分に実用的で、コンディションは今まで見た中で有 数のよさだと思う。
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が、そのオファーを持って帰ったJFが、すぐさま電話をよこす。「別口
オファーがあって、明日オーナーの前で現場オファー合戦をすることになった」
といわれる。
―――??? つまり俺たちに競りをやれというのか? なにか貴重なもの を求めているのならともかく、どこにでもある普通の家だぜ。特に安いわけで もお買い得なわけでもない。『俺たちはこの家しかない』と身もだえているわ けじゃないのだ。
そういって一旦は断ったのだが、これはカナダではよくある手順で、単に交 渉時間を短縮するためだ、JFたちが間に入るため、実際に顔を合わせて競 合するシーンはないのだと説得されて参加をOKする。とほほ。
外はひどい風雨。家は新しいものが出ない限り考えても仕方がないので、 確定申告事務をやる。DoDiary などで記録をまめにつけていたおかげで、数時間で必要情報と書類が揃った。すっきり。
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猛烈な雨の中 Lougheed ハイウェイを競り現場に向かう。なんとドアの雨漏
りが再発し、それでうわわといいながら現場に着く。交渉はオーナーが強気でビタ
一文下げてこない。どうやらライバルの競り参加者が全額出すといっているらしい。が、そちら
は銀行のローンがどうなるか分からないという弱みがある模様。がそういったファクターを基に駆け引きを楽しむ気持ちにも別になれない。
「OK、次に この額を提示して、駄目だったらあきらめよう」とMにいう。「なんというかさ、 喉から手が出るほどほしいわけじゃないんだから、オーナーも少し譲ってくれるな らばよし、駄目だったら日本でいう『縁がない』と考えよう。Not meant be ours という ことだ」。するとMが悲しそうな顔をするので、分かった、じゃあ駄目だった ら全額払おうと方針をコロっと変える(笑)。が幸いなことに、そこで相手 が折れた。決まったということは、インスペクションで大問題が見つからない 限り、あの家を買うということだ。えらいことになった。
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夜眠れずいろいろ考えていて気がついた。こないだオファーまでいってコケた
K通りハウスは、修理費が馬鹿高くて買うのをあきらめたのだが、この家
は修理がほとんど必要ない。つまりリノベーションに金をかけても、トータル
ではあれより低い費用でより快適になる。そう思うとやっと気持ちが落ち着いてくる。明日
Mにそういってやろう。
JFから家の間取り詳細が届いたので、コンピュータ上できっちり寸法をは かって部屋割りを出してみる。1階のガレージさえぶち抜ければ完璧にいけそ うだ。
さっきメールサーバーの障害でMKと話したとき、「とうとう家を買ったぜ」 というと、奴は「Ya!」と元気に答えていた。「皆でそこに住むかもよ」「Ya!」 「だけど(お前が気に入らなくて)住まないかもな(笑)」「Ya!」。――― あいつがこの家に入居するかどうかはまだ未定なのだが、やっぱ りあいつがきた方がなにかと楽しいよなあと思う。あの家の1階を見たら、 こないだのようにまたがくーんと熱意が下がるかもしれないが。まあとりあえ ずBRだけでも快適に暮らしてもらおう。プラン通りになってから家を見れば、 あいつだって住みたくもなろう。もう費用以外のことは、あれこれと心配する 必要はない。
現在G通りハウスの目の前、俺は車の中で萌が起きるのを待っている。あ らためて外から眺めると、状態は非常にいいんじゃないか なと思う。覚えてなかったが前庭にもきれいなメイ プルの木が生えていた。家の前は一応コルデサック(半行き止まり)だから交 通事故の心配もないし、よいところだ。EDさんも到着し、inspection が始 まる。思ったよりもずっと若いオーナー一家はガレージセールをやっている。 俺もちゃんと中を見たいが、萌が起きるまで我慢。
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EDさんは毎度手抜きのない仕事振りでインスペクションをやってくれた。
結果、見た目通り、俺たちが感じた通り、状態はよい。大きな問題は屋
根の張り替えだけだとなった。それは値切った分でおよそまかなえるので、こ
れで家の購入はほぼ決定。あとはリノベーション案さえまとまれば手打ちであ
る。エドさんは「こないだのK通りよりはるかにいいよ。家もいいし場所
もいいし、庭もちゃんとしてるし、いいバリューだよ」と言ってくれた。
そのリノベーション案なのだが、ガレージぶち抜き が可能かどうか。1階バスルームの拡張が費用的に高すぎないかなどまだ 分からない部分が多い。リノベーションもお願いすることになるEDさんの口調か らは、大きな問題はなさそうだが。
2階は、改めて見ていい間取りだなあと思う。俺の PC 机その他ガラクタを メインに置いた上で、リビング一面が萌のために空けられる。前に住んでいた 人(今日いたナイスな姉妹の両親だとのこと)の創造性が生きている。欲を言 えば、リビングから表の通りよりは裏庭が見えた方がよっぽど気持ちいいとい うのが日本の感覚なのだが、カナダにはそういう家はないのだから仕方ない。 なぜなのかしら。まあバスルームの貧弱さも合わせて、それが文化としかいい ようがないのか。
午後P家訪問。萌の機嫌も割合よくて楽しく終わる。Pさん一家は俺たちに 本当に親切だ、俺たちは毎年P家の子供たちにお年玉を5ドルあげているだけ でいいのか? などといいながら帰る。行き帰りうちのホンタス号は好調で、120km という新記録を出した。しかしもうまっ たく春だ。バンクーバーイーストでは桜のつぼみがふくらんでいた。
エドさんから夜連絡。Mが詳細に相談した結果を計算したところ、リノベー ション費は俺が恐れてたよりも大幅に低い値が出た。「だけどプラスアルファ は見込んでおいてほしい」といわれた額ですら俺の想像より低い。これなら行 ける。よし。
というわけで、これで決定だ。エドさんが6月まで手が空かないという別な 問題が発生したが、まあ俺たちは今月末に引っ越して暮らしておればいいのだ ろう。部屋数は十分あるので、BRも住み込んで6月まであれこ れ考えればよし。あー、長い家探しの旅が終わったー (almost)。
JFが来て契約終了、終わった。今日から引越し準備だ。
午後萌のスイミング、いつもの Eileen Daily より近くてよいかもと思った BonSoir という施設のプールは、全然駄目であった。施設がお粗末なのにもがっ かりしたが、子供プールで中国のおっさんがバスケットボールをやっていて、 あぶなくて仕方がない。「おっと危ないねえ」などと俺が大袈裟につぶやいた のだが通じないのかやめてくれないし。そのおっさんの妻らしいおばさんも俺 の困惑に気付かず、泳ぎもせずずっとプールサイドのデッキチェアで寝転がっ ている。室内のプールなのに、なんで甲羅ぼしをしてるんだ。まあそれは勝手だが。
おまけにそのプールは浅すぎて萌の潜水訓練ができず、塩素もずいぶんきつ い。嫌になって早々に切り上げ、なんだかいろいろと憮然としながら水から上がって更衣室に入る と、そこでは中国のおっさんの何人かが水虫の薬を足に塗ってるので ある。とほほほ....。日本のオヤジの銭湯ノリそのもの。こういう日本オ ヤジは普通海外に移住しないが、香港からはあらゆる人が一斉に逃げてきてし まったわけで、こりゃあちこちで文化摩擦も起きるわけだとつくづく思うので あった。
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夕方LDが興奮気味で飛び込んでき、あんたたち家を買ったのよ、なにその
感動の薄さは! と騒いでいた。いやーほっとしてるんだけど、ここに至るま
でのストレスが尾を引いていてねー。するとMもまったく同じことを言って
いた。「エモーションがうまく働かない感じなのよ」。そうなんです。
やっと決まったよと母さんに写真付きのファックスを送る。それを見て母さ んも喜んで電話してきてくれた。いやほんとどうもありがとうねー。ぜひまたカナダにきておくれよ。今度は皆でいつまでだって滞在できるからさ。