中田を見られる幸福・トルシエ代表分析

Subject: 中田を見られる幸福
From: Tomohisa Sakata
Date: Sun, 20 Feb 2000 03:02:10 -0800
    ----------------------

  HK君、すでに俺は送ってもらったサッカーテープを4試合も見てしまった。
 「我慢してもっと長持ちさせよ」とMさんはいい、俺もまったくその通りだと
 思うのだが我慢できん。ここまでの感想を送ります。

===========================================================================
■ 00/02/18(金) 16:23:56	□ 中田を見られる幸福
===========================================================================

        ┏━━━━━━━━━━━━━━┓
	┃ 豪華6本サッカーテープ    ┃
        ┗━━━━━━━━━━━━━━┛
  夕方、HKからの豪華6本サッカーテープが届く。先週末のローマ−ペルー
 ジャがもう入ってる! 興奮してさっそく見ると、なんという速いサッカーな
 のだと目が点になってしまった。ものすごい勢いでフォワードに楔のパスが突
 き刺さり、異常にうまい FW がそれをきっちりキープまたはポストし、とんで
 もない勢いで上がってくる DF たち(なんで SB が常に PK エリアまで突破し
 てくるのか)にボールが返され攻撃が積み重ねられる。これはなんというか、
 イヤハヤ。ペルージャも瞬速カウンターが持ち味のチームなので、まさにピン
 ボールのようにボールと人間が行き交う試合になっている。

  この展開で両軍ともにミスがぜんぜんなくボールがつながっていくところが
 もう恐れ入ってしまうが、なるほどローマが速いというのはこういうことかと
 納得した。たしかにすごいサッカーだ。普通のチームが3〜4人でときたま見
 せるカウンター攻撃を、チーム全体で、放っとけばゲームの間中やっていると
 いうすさまじいチームなのだ。どっひゃ〜〜っと両サイドの攻撃が続き、止ま
 るのはファウルが出たときだけという感じで、サッカーというよりもなんか、
 アメフトみたいだ。

  で中田はというとそのピンボールにひたすらついていき、相手の攻撃が危険
 となったら足を挟んで流れを止めるという感じのプレーをやっていた。ややモ
 タり気味にしろそういう仕事がちゃんとできるだけでも能力が高いのは瞭然だ
 が、中田をあそこに置くのはいかにももったいないと思う。と思っていると例
 の王子様トッティが退場。再開時あっという間に中田が点を取ってしまった。
 あそこでループを打てる判断力と技術(ため息)。

  でそこから中田交代までの 40 分ほどは、まさに中田ファンのための天国状
 態、伊アナウンサーいわくの「中田ショー」だった。トッティが抜けたおかげ
 でできたスペースを思うが侭に使う、中田のすばらしいプレーが延々と続く。
 すべてのプレーが美しく、笑ってしまう。カオティックなピンボールだったロー
 マが、中田の動き、ボール保持、運び、パスによってキビキビと指揮される別
 のチームのようになってしまった。気持ちいいことこのうえない。「中田は今
 まで弱いチームだからボールが集まったのであって、ローマじゃ並みの選手だ」
 なんていってた奴もいたが、まったくそうじゃないことが証明されていた。

  フットボールのファンタジーとはやはり、こういう状態をいうんじゃないだ
 ろうか。肉体と肉体、精神と精神がぶつかりあいひしめき合う状態よりも、技
 術と意表をつくアイデアと判断力がしのぎ合うゲームの方がやはり俺は楽しく、
 中田がまさにそれをできる選手であることがうれしいのであった。世界でもっ
 ともサッカーのうまい人たちが、それぞれの特徴を生かして必死に中田を止め
 ようとし、中田はそれを技術とアイデアでくぐり抜けている。俺が日本のサッ
 カーに夢見ることはなかなか実現しないけど、中田だけは現実にそれをやって
 くれているのだ。

    ----------------------
  しかしトッティが出られない次の試合はまたこういうプレーをできれば問題
 ないだろうが(11 人いると難しいのだろうか?)、その後どうなるのだろう。
 やっぱりボランチをやる中田は見たくないと誰もがこの試合で思っただろう。
 あの美しい中田のグラウンダーパスを見られないなんて不幸だと誰もが思った
 だろう。中田は自分からアクションを起こせるときに輝くのであって、ボラン
 チという相手のよさを消すのが役目の仕事では、常に「あそうだ、俺がつぶさ
 なければ」と受け身になり十分に働いていないように見える。あれならばほか
 にオリーベなどもっとうまく強く飽きず怠らずにやれる選手がたくさんいるわ
 けで。......しかしシーズンも終盤の今、肉弾トッティ型(トッティは王子と
 いうよりライオンキングであった)から貴公子中田型に切り替えるのは、無理
 だろうなあ。どうなるんだろう。


Subject: 大長編トルシエ代表分析 From: Tomohisa Sakata Date: Tue, 22 Feb 2000 17:19:39 -0800 ----------------------  HK君、もうテープを4本も見てしまったよ。残り少なくなり悲しい。中田 に感動したことはすでに書いたけど、代表の試合を見ているとやっぱりいろい ろ考えさせられるね。  まず、中村は本当にすばらしい。今回の代表でいちばん輝いていたのは彼だ というのに誰も異論はないだろう。ボールをキープでき、突破でき、ドリブル ができ、シュートが打て、パスが出せる。なによりも自分のアクションでチー ムを動かすことができる。ただ、中村は本当の国際Aマッチで戦ったことがな いのが残念。メキシコ戦でこれをやらせたかった。壁に当たるのならそれは早 い方がいいのだから。  小野と名波は、中田中村に比べるとかなり限定的な職人という感じがする。 小野はプレースピードがないのが気がかりだし、名波には2試合でかなり失望 させられてしまった。コンディションが悪かったのかもしれないけど、技術と アイデアこそが名波のすべてだったのに、それを感じさせてくれなかったな。 各試合の感想を書くが、長いぜ(笑)。 ==== ◆ ========== ◆ ========== ◆ ===== ■ メキシコ戦  前半は日本のほうがいいサッカーをやってると思った。今までさほど素晴ら しいと思ったことのない小野の、その才能を一発で俺に分からせる美しいトラッ プ&パスがいい感じ。フェイクのスルーを多用する攻撃陣のこしゃくな組み立 ても、工夫が効いていてよかったし。  が、だんだん日本DF前にメキシコのためのスペースができてきた。あのへ んがチームの未完成な部分なんだろうか。厳しいシーンが何度も続き、おたお たになった日本はついにクリアミスからバーに当たるシュートまで打たれてし まう。  フォーメーションはいつものWB2枚だけど、ここで望月が常に激しくバト ルしており、彼は俺が今まで見た中で最高の仕事をしていた。が、どんなにW Bがよくても彼らが攻守に使えるのはライン際の限られた地域でしかないのが つまらない。相手のサイド突破を防ぐ効果は非常に高いが、使える角度が半分 (望月は右には開けず名波はその逆)では自分の攻撃にも使えないじゃない。 あそこにボールが入ると、後ろに戻すか前への突破を試みてサイドラインには じき出されるかのどちらかで、時間と人員の無駄に見えるのだよね。4-4-2 時 代のSBよりも前に位置しているWBなのに、サイドをえぐってセンタリング を上げられないのは、攻守お互いにラインで挟めば止められると了解しあって るからだと思う。タイミングやスピードじゃ裏をかけないのだ。メキシコはそ れでもきれいなコンビネーションで裏をかいてサイドを破っていたけどね。  そういう味気ない場所に名波・中村という攻撃の切り札を張るのは、わざわ ざ手数を減らしてるとしか思えないのだ。これが攻撃時効果を表したのは、弱 敵相手の本山の個人突破しか見たことがないな。俺には『フラット3にする→ サイド突破に弱くなる → WBをサイド突破防止に充てる → WB2人で1人 分の攻撃量』としか見えないんだよね。メキシコにばんばん中央を突破されて しまうのも、サイドに人員を割きすぎているからではないかと疑うし。 ----------------------  メキシコの選手は全員がテクニックとスピードのバランスが取れていて、見 ていて気持ちいいね。そして試合運びがうますぎる。必死になってくる日本の 鼻先をつついてプレーを粗くしミスを誘い、返す刀で一気にゴールを脅かし、 それを繰り返すことで日本のリズムをめためたにしてくれた。サイドのオーバー ラップだとかサイドチェンジだとか、日本のやりたいことを全部やられてしまっ たという印象が残る。しかしこのチームがこの後なんと、カナダに負けたんだ ぜ。その試合のメキシコは、これとは比べ物にならない怠惰サッカーをやって いたんだけど。  しかし香港のサッカーファンは熱い。ちょっといいプレーには大歓声が湧い て気持ちいい。  全体に、攻めの部分では今までの日本代表とあまり変わりないなと思う。同 じ程度の創造性とプレーの遅さ。小野は意表をつく部分のよさが戻っているが、 プレースピードが中田に比べると足りなくて、出来ることが限定されているな あと思う。アイデアは同じだけ豊富でテクニックが同じだけあったとしても、 動きにスピード(主に相手をかわしていい位置を取る力)がなければ実現はで きないよね。これから体が強くなればいいな。  チームの攻めで一つ感じたのは、カズが入ったときに会場全体が盛り上がり、 「行け」という雰囲気になり全員が攻めていった瞬間があったよね。あれが、 今の代表にはほとんどないのがいかんのだよ。あの強い気持ちとそれに伴うプ レーの加速がなければ、強い相手から点を取るなんて無理なのだ。全員の気持 ちが一瞬高揚し、決死の思いで皆が同時に走り、そこにできる大きな混乱の中 からなにかを起こさないことには、サッカーで点は取れないのだ。今の日本の スローな攻めでは、どう意表をついても相手に対応されてしまう。弱い敵から も3点しか取れないというのはそれだろう。  ローマみたいな状態になれば全員が全プレーでミスをすると思うが、あの半 分のダイナミックさを目指し、かつミスを今より減らすよう努力するのが日本 の生きる道だろう。トルシエがそういう訓練をしてくれたらいいんだけど。こ の試合からだけでもいくらでも直すところは見つかると思うのだが。 ---------------------- ■ カールバーグ杯香港戦  続いて香港戦を見る。中山カズに名波が真ん中でその外に服部がいるという、 俺が見たいと思っていた旧代表っぽい布陣になっている。なのだが、これが別 にいいところがなくて、ああやっぱり俺の素人考えなんて実際になってみると だめなのかなと思う。  しかし名波はこんなものだったのかな。つまらないミスが多く、ひらめきは あってもそれが相手に打撃を与えていない。途中から名波のプレーに対する期 待が失せてしまった。上に書いたように名波に真ん中をやらせないトルシエ戦 術(というか彼のWBを置く戦術)に俺はずっと不満があったんだけど、その 真ん中に置かれても別になにもできない名波に失望してしまった。奴のアイデ アはあんなものだっただろうか。すでに中村の方があらゆる局面でよりよい仕 事ができることを見せ付けている。  皆が心配(または早くやめろと罵倒)しているカズは、昔と変わりなく見え る。体の切れはあり、ほかの選手にはないメリハリが回りのプレイヤーの動き を引き出して、見ていて気持ちがいい。が、それがドリブル突破やパスを受け てのシュートといった結果につながらないのがつらい。一番の見せ場は左足か らの強烈なロングシュートだった。今どの年代の日本FWも、スピードで抜け てちょんと合わせるというタイプしかいないので、ああいうストライカー風な シュートを見ると4年前の加茂JAPAN全盛期を思い出させなつかしい。もっ とカズを見たいと俺に思わせるのだが、この後の試合でも使われて点は取れて ないとなると、駄目なんだろうか。  駄目なのであれば仕方がない、2年後に主力になるFW選手が、カズ的なプ レーを身につけてほしい。俺は今までそんなにカズカズと思ったことはないけ れど、彼のなにがそれほどスペシャルなのかが香港戦を見て分かったような気 がするな。トルシエがカズを呼んだのはチームのムードづくりなのかと思った けど、カズにしかない胸をドキドキさせるものがあるのだね。  それはなんなのかと考えてみると、ほかのFWは中山を含めて全員が、敵か ら逃げてスペースで仕事をする選手なんだよね。カズは敵DFと絡み合い戦う ことにより、回りのプレイヤーのアイデアを引き出しリスクにチャレンジさせ るFWなのだよ。香港戦では結果は出なかったけど、1人異彩を放っていたの はたしかにあったと思う。それをトルシエはこのチームに入れて見てみたかっ たのだろう。 ---------------------- ■ シンガポール−日本戦  我慢しようしようと思いつつ続けてシンガポール−日本戦まで見てしまう。 シンガポールの選手はドリブルもまともにできない程度の技術なのだが、サッ カーというのは体を寄せてボールに触れ相手のやりたいこと邪魔するだけでも 守れるスポーツであり、日本は邪魔がてきめんに効くチームなのでイライラす る展開。中村がすでに中心となってゲームを進めており、彼と小野との2人だ けであれこれ崩しを狙っている。ほかの中盤はボール拾いの脇役という感じ。 伊東はそれが持ち味だが(それだけじゃつまらないんだけど、例のWBのポジ ショニングの味気無さでもある)、沢登はさぞやつまらないことだろう。実際 この後もぱっとせず、チームが U-23 中心すぎるとチームを批判したらしい。  しかし見ていれば分かってしまうのだが、中村が一番いいところに位置して おり、一番いいアイデアを持っており、一番決断力と勇気があるのだ。チーム はそれを感じるから彼にボールを預けるのだね。俺がチームにいても同じこと をする。左にいるはずの中村が中にいたから沢登がなにもできなかったという のが事実らしいが、だったら俺に中をやらせろどけと主張すればいいのである。 それができないのはスポーツマンの力関係というものだろう。  後半になったら中村が左WB位置に収まり、その分沢登がボールに絡むシー ンが増えたけど、その分過激な攻撃が減ってしまった。これがシステムのせい だとすると、2人で1人分の仕事しかできないトルシエのシステムの矛盾をま た感じる。  3試合で全部の選手を見てみると、若い選手のよさを認めないわけにはいか ないね。DF は中田が一番ふてぶてしさを感じさせるし、ボランチは稲本が歴 代最強に間違いない。名波はもう中村に抜かれたかと思うし、沢登伊東は決断 力がなさすぎる。別に「チームがオリンピック世代中心だから旧世代が活躍で きない」のだとは、俺には思えない。沢登には悪いけど、ローマの中田を見て みても、チームが自分のために動いてくれるかどうかは自分が決めることでし かないのだと思う。 ----------------------  いま騒然としているトルシエ解任問題だけど、解任派釜本の言っていること はまあ、なにを言ってるんだオッサン黙れと万人が思っていることだろう。ど うせよというのかなにも具体的なことは言ってないわけで、プロコーチのトル シエと直接サッカー談判して釜本が勝てるはずがない。よってトルシエは当分 このまま行くと見る。  だけどこのままでいいのかといわれると、誰もがまた困ってしまう。トルシ エが追求しているらしい U-23 と同じサッカーが大人に通用するのかどうか、 アジア大会までははっきりと分からないからね。U-23 でさえ、強い相手にど こまで戦えるのかは分からないままにオリンピック予選を通過してしまったし。 ワールドユースで、相手が弱いうちはパスと選手が異常に美しく駆け回ってい たじゃない。あれができたらいいんだけど、相手が強くなりパスも走りも自由 にはできなくなったときにどうするか。  が試合を見て、カズを「ベテランの経験を活かす」「ムードメーカー」なん ていうあいまいな目的で呼んだのではないと俺には思え、それが希望を感じさ せるな。トルシエが見ている日本代表に足りないものは、ゴールに突き進んで いく総体的な意志なのだろう。全員の足が同時に動いてしまうようなダイナミ ズムが、どこのパーツからもほとんど見えてこないのが問題なのだろう。カズ のどたばたした動きは、ネガティブには「なにやってんのよ、どうせ抜けない くせに」とシニカルな批評心を呼び起こすけど、あの強い意志を「あそこから チャンスが来るかもしれない」とポジティブな全体のエネルギーに転化させる のがトルシエが行えるマジックだろう。  カズは昔からドリブルで相手を抜くことはできなかったけど、相手DFが目 の前にいても、体を押しつけてきてもシュートを打つことができたよね(今回 見せた左45度からのロングや、ユーゴDFと体をぶつけ合いながら一瞬の足 の振りで点を取ったあれを想起)。ああいった、とあ〜っという選手の働きが 全体にアドレナリンを満たしていかないと、チームは浅いところで安全なパス を回し、ときたま反対サイドに抜け出す中山や平瀬にぽーんと出すだけで延々 と時間を費やしてしまうんだと思う。  ほかにああいうFWはいないんだろうか。―――と考えると、やっぱりポス ト力のある城にトルシエが期待するのも道理だと分かってしまう。奴が本物に なってくれることを祈るしかないのか(ため息)。高原も割合にがっぷり四つ タイプだと思うけど、まだひ弱な感じがするしね。 ==== ◆ ========== ◆ ========== ◆ =====  といったことを考えました。試合は面白くなかったがそんなつれづれの思い が面白かった。まことにどうもありがとう。また頼むよ、この借りは必ず返 す! いつか。そのうち。

目次へ(index) inserted by FC2 system