「信じられないよ、ここまで来れるなんて」(カナダ代表)
From: Tomohisa Sakata
Newsgroups: fj.rec.sports.soccer
Subject: RP: CONCACAF Gold Cup: Trinidad and Tobago - Canada
Date: Fri, 25 Feb 2000 09:28:06 GMT
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■□ サカタ@カナダです
◆ CONCACAF ゴールドカップ準決勝:トリニダッド・トバゴ対カナダ
待ちに待ったトリニダッド・トバゴ−カナダ戦が始まりました。いつもなが
ら CONCACAF のゲームは静かだなあ。プレスがゆるく、誰がどこでボールを持っ
ても誰もぶつかってこない。のんびりしております。個人技にすぐれたトバゴ
がボールを支配するも、ジャマイカからすごい選手を3人くらい抜いたという
感じの小粒なチームで(カナダが恐れていたマンチェスターユナイテッドの選
手は怪我で出なかった)、攻撃では横方向への小刻みなドリブルが多く短いパ
スをつないでいるだけ。ほとんど脅威は感じません。
なのにカナダは、いつにも増して浮き足だっている。なぜだ。守備陣が穴だ
らけでマークが弱く、ちょっとしたスルーパスがGKの目の前に通り、すぐに
1対1になってしまうのです。カナダのディフェンスは身体能力にものをいわ
せてそこそこ堅いと思ってたのに、信じられない最終ラインの反応の遅さ。
シュートが打たれ始めるともう押し上げることはまるでできず、カナダは守
勢一方。いくらPエリアで常時6人くらいが守っていても、マークがゆるけれ
ば意味がありません。見ているこっちが出る前から分かってしまうようななま
ぬるいスルーパスが、通るわ通るわシュートの雨あられ。カナダGKフォレス
トがすばらしいファインセーブを次々に見せています。
これでは失点も時間の問題。イライライライラ。―――なあにをやってるん
だお前たち(釜本化)! 韓国をシャットアウトし、コイントスに勝ち(笑)、
メキシコを破ってここまで来たんじゃないか。相手はドリブルがうまいだけな
のに、なにをそこまで臆病になっているんだ。このカナダの圧倒的な自信のな
さが、私にはよく分からない。
35 分、ゴール前のもつれから倒れるトバゴFWとカナダDF、PK! な
に〜!? なんなのだ今の判定は。特に厳しくもなく体を預けて競ったDFがファ
ウルを取られてしまいました。あれがファウルじゃ世界中どこのサッカーもP
Kだらけだぞ。さっきからほとんどすべての接触プレーで笛を吹いてプレーを
止めていたので、いやなレフェリーだなと思っていたのですが、えらいことに
なってしまいました。―――がしかしカナダGKフォレスト止めた! 見事に
コースを読みPKを止めてみせました。この男はすばらしい。
このスーパーセーブに数十人(?)のカナダ応援団が湧き立ちます。よおし
ここから反撃開始だぜ。眠れるカナダ獅子もついに目覚めたか。......が駄目、
すぐに元に戻ってまた守備一辺倒です。ひどいなあこりゃ。前半終了。このま
まじゃほんとに時間の問題。シュート数は 15-2 くらいでしょう。
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見ている特派員サカタはもう腹が立ってイライラして、たまらぬものがあり
ます。これはオジェック氏がハーフタイムに強力にどやしつけてくれないと困
る。相手が強くて手も脚も出ないのなら仕方がないけれど、韓国戦もメキシコ
戦もこの試合も、そういう問題ではないのです。気持ちを強く持ってファイト
していけば、絶対にチャンスを掴める相手なのにそうしない奴らめが。イライ
ライラ。
しかしやたらめったらに笛を吹き、削ってもいない単なる接触ファウルでイ
エローを何枚も出しているこのレフェリーには困るなあ。一瞬考えて「ま、せっ
かくだから吹いとくか」と吹くホイッスルも多いし。なんでこんなレフを呼ん
でくるのだ CONCACAF 主催者。
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後半、カナダはやっと本当に反撃を開始しました。が押し上げてみても自信
を持って断固たる態度で攻める者はひとりもおらず、半端に攻めては厳しい反
撃をくらうカナダ。シュートを打たれフォレストのファインセーブで逃れる場
面は依然続きます。
20 分、簡単な 1-2 でトバゴDF陣を突破してカナダのシュート、GK弾く!
非常に惜しいチャンス。ほらご覧、相手は攻めも守りも淡白な国なのだよ。シ
ンプルにひとついいプレーをすればチャンスはできるのだよ。2ついいプレー
を続けろとは誰もいってないのだよ。頼むよ。
30 分、トバゴのミスからゴール前にフリーなボールが転がる、駆け込むカ
ナダFW、打て! 打たない! ―――打たないでPKボックス外に持ち出し
た! なぜだああぁぁ......。日本のFWは消極的だと批判されますが、角度
がややなかったとはいえシュートを打てる位置からPエリアの外に持ち出して
行くシーンなんて、さすがに見たことがありません。
そしてそのプレーがファウルで途切れ、カナダFK。ヘッドで折り返したボー
ルがフリーのカナダ選手の頭にきれいにつながり―――ゴール! またメキシ
コ戦と同じあっけない得点です(絶句)。どうもなんというか、ここぞという
ところで期待に応えず、妙なところでポコンと点を取るカナダとなっている。
いやはや。
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そして笑えるのはここからカナダが自信を取り戻し、完全に形勢が逆転して
しまったのこと。あらゆる局面でキビキビと、自信を持ってボールを処理し、
攻める気持ちを持ってゲームを完璧にコントロールするカナダ。DFの反応速
度も2倍になっています。さっきまで中学生のごとくひたすらサイドラインに
クリアしていたボールも、今はきっちりキープして前の選手につなげている。
メキシコ戦でもそうだったように、どうやら『点が取れると』一気にモチベー
ションが上がるというチームらしい。分からないでもないけれど、普通はモチ
ベーションを上げて攻撃を高めて点を取るのにね。このカップのカナダの戦い
は、ある種スポーツ心理学の題材になるのではないでしょうか。
残り 10 分、あせりと攻め疲れからプレー精度が落ちているトバゴはきちん
とチャンスを作れず、遠目からのシュートに終始。カナダは軽いプレスをかけ
てボールを奪い、相手の詰めは横パス後ろパスできれいに交わし、さっきまで
とは別国となってトバゴから時間を削り取っていきます。見事。このへんはオ
ジェック氏のディシプリン指導が効いているという印象。FWペスキソリドの
封印されていた個人技も何度か発揮され、そのまま時間をしっかり稼いで、ゲー
ム終了。新 CONCACAF チャンピオン(*)、カナダの誕生です!
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抱き合い転げまわり喜ぶ選手たち。TV では前監督も、本当にうれしそうに
喋っています。「これはカナダサッカーにとって、これまでないほど最高の出
来事だ。メキシコを破るだけでもこれ以上だいそれた夢は持てないと思ってい
たのに、彼らは本当に CONCACAF チャンピオンになってくれた」。
前回 WC 予選を戦ったこの前監督は、試合中コメントを聞いていても戦術的
な解説はほとんどせず、「彼はいい選手でこういう特徴がある」「トバゴは今
まで見た中で一番ソリッドだ」といった論評に終始しており、どうやらあまり
ストラテジックな人ではなかったようです。が、人柄のよさとカナダチームに
対する愛情が全身から発散しており、この人柄が長いことカナダを率いてきた
んだろうなあと思います。
オジェック氏はその点世界のサッカーと戦術を知り尽くしているだろうし、
それが今日最後の 20 分のような統制の効いたスマートなサッカーとなって就
任以来 10 戦無敗(らしい)という成績を生んでいるのだと思いますが、その
彼が前半のような超消極サッカーをなぜ修正しないのか。それが分からない。
相手に好きなだけ攻めさせているのだから守備的というのともまったく違うし、
このままでは決勝コロンビアにひどいゲームをしてしまいそうで心配です。と
にかくもっと選手に自信とモチベーションを植え付けてほしいもの。今日の最
後 20 分をちゃんと最初からできれば、どことやっても恥ずかしいゲームには
ならないはずなのだから。
試合後、今日のヒーロー、決定的シュートを5〜6本は軽く止めたGKフォ
レストをインタビュアーが捕まえました。すばらしかったね! 「いや、もう
......信じられないよ。ここまで来れるなんて」。―――あ、泣いている。そ
れだけ言葉を残すと、彼は走り去ってしまいました。しびれたぜフォレスト。
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│サカタ│
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.. P.S. これでカナダは Confederations Cup 出場(**)が決まったわけですが、
アジアはアジアカップ勝者が出るのでしょうか? この大会はいつ
あるのでしょう? 来年かな?
注:(*) ゴールドカップは CONCACAF(北中米エリア)主催のトーナメントで、決勝の相手コロンビアは南米からのゲスト扱いとなります。したがってその結果に関わらず、カナダのチャンピオンはこの試合で決定。ちなみに決勝でもしコロンビアが勝っても、賞金は出ないそうです。ケチか(笑)。
(**) Confederations Cup はなんと 2001 年日本で開催。
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