【Journal】Uの魂は燃えていた
■ 01/02/01(木) 17:46:59 □ 久々に書き物マインドが爆発
昨日さまざまなオンラインブックの書評をMLに投稿したら、いろいろと反
応があって、それで久々に書き物マインドが爆発して書きまくった。書いてい
るうちに考えがむくむくと広がりまとまっていって楽しかった。こういう風に
真剣に考えものを書くこと自体がえらく久しぶりな気がする。この1年はほん
と、妊娠出産でそれどころじゃないという感じであった。
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萌と遊んでやりつつ一日かけて MS Glossary のデータベース化をはかる。
できたはできたのだが、全検索をやらせてみるとさすがに 3 ファイル 45MB
のデータなので遅い。イライライライラ。頻度の高いグループから先に引くよ
うデータ構造を変えてみても大きな効果はなし。仕方がないから速度はあきら
めて、とにかく一度の検索で確実に見つけてくれるよう全データを 1 つのファ
イル 45MB にまとめてしまった。ギリギリ実用にはなる速度だと思う。翻訳を
始めた頃は必要な参照情報は 10MB くらいのデータだったのに、この先どれだ
け増えるんだろうと暗澹たる思い。
■ 01/02/03(土) 13:30:02 □ T-Time 評論 / 改善案
Coquitlam の家を2件見に行く。どちらも駄目。値段のわりに古いという印
象。Coquitlam は PoCo よりやはり高いのだろうか。BRは Coquitlam
をあまり気に入らなかった様子。確かに今日見に行ったあたりは、急坂に家が
立ち並ぶだけで少しもよくはない。今のアパートの裏手あたりがいいなと思う。
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その後は一日中 T-Time 評論 / 改善案を書いていた。俺ってこの、プログ
ラムの評論と改善というのは天職だよなあ。人生がもう一度あったなら、今度
はギターをもっとうまくやると同時に、学生時代からプログラムの勉強をした
い。英語だって完全に独学で覚えたわけで、大学で勉強したことはなにもなかっ
たのだ。コンピュータ科に入っていたほうがはるかに面白かっただろう。
■ 01/02/04(日) 15:30:44 □ オンライン作家いろいろ
静かな日曜日。あちこちにオンライン小説を探しにいく。今後読みたいもの
がいくつか見つかり、読みやすいように5本ほどタグ入り T-Time ファイルに
する。各章の見出しにタグをつけてやるだけなのだが、検索&マクロでそれを
やっておくと、章ごとのジャンプと肩見出しがついて気持ちがいいのだ。
冬佳彰氏の作品ほど「この人のを全部読みたい」と入れこむものにはまだほ
かに出会っていないが、オンライン小説レビューページで推薦されていた老作
家の埋もれかけた入魂大長編戦記小説のように、1篇を書き切るくらいの気力
のある人なら誰でも1つくらいはすぐれたものを成せるのではないかと思う。
俺だったら最初の1本で言いたいことを言い切ってしまい、次が続かないに決
まってるが。
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Mの旧友のPLが送ってきた小説はなんと出版社の眼鏡にかない、彼女は今
コマーシャルなものの骨子を作って提出せよと2社から依頼されてるんだそう
だ。俺は出だしだけ読んで「なるほどそれっぽい(ロマンスものっぽい)」と
だけ思って読まなかったのだが、才能があったのね。彼女は、「書こうという
ときは必ずいいアイデアが1つ手元にあるときだから、出だしはと終わりはそ
れでうまくいくのよ。問題はその中間で、どうやって読者の興味をつなぐかっ
てことで、そんなに面白いアイデアがどんどん浮かぶわけがないから滅茶苦茶
苦しむわ」と苦労を語っているそうだ。
彼女はアーティストだったんだなとMに聞くと、「ちがうちがう、PLは書
くことが好きでライティングを習っていて、せっかくだからその技術でお金を
稼ごうというだけのことよ」と笑っていた。?? やむに止まれぬ芸術のデー
モンに突き動かされてるんじゃないのか? 「とにかく好きでクラスを取って
技術を学んだんだから、それがお金になるならいうことないじゃない。今書い
てる出版社のやつだって、フォーミュラ(公式をなぞって質の揃ったものを量
産する)だって彼女は割り切ってるわよ」。───うーむなるほど、そうなの
か。そんな作家もいるのね。
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夜、非常に気持ちのいい平安期ファンタジー、イピ・ユーム氏『古代のナガ』
を読む。すばらしい。出てくる人々や鬼のそれぞれに実在感のある魅力を感じ
られるのは、作者が魅力的な人だからだろう。最近ハードな冬佳彰作品を大量
に読んでるせいで、いつかどんでん返しがあるだろうと身構えながら読んでい
たのだが(笑)、最後までいい気持ちで楽しめた。
■ 01/02/05(月) 13:37:00 □ Uの技術じゃ駄目なのか
柔道家MHくんがこないだ送ってくれた「PRIDE」という格闘技大会を見る。
のっけから高田が出てきた。相手は豪腕パンチのウクライナ人(K-1 でも勝て
そうな人)。最初のうちは高田も真摯に努力してるんだなあと感動するような
戦い振りだったのだが、グラウンドになってしまうとどうにもならなかった。
相手にねじ伏せられ上に乗られて、あとはひたすらパンチをこらえてこらえて。
「(パンチがモロに当たるから)頭を離しちゃ駄目だ!」と叫ぶ解説者に対し
て、見ている俺がうるさい黙れ勝手なことをいうなと言いたくなってくるほど
こらえて負けた。ダイジェストでしか見たことのないヒクソングレイシー戦も、
グレイシーの方がさすがに洗練されてはいたけれど、大筋でこんな感じだった
ように思う。
これは高田が弱かったというよりも、アジア人の筋肉ではこのバーリトゥー
ドという競技には勝てないんじゃないかという気がした。ほかのどんな格闘技
よりも力の要素が大きいように見える。高田とウクライナ人は同等の体格に見
えたが、力ではまったく適わない。高田は上になっても相手のガードを崩せな
いし(それは技術も足りないのだろうが)、抑え込まれたらもう動けないのだ
から、打開策がない。この試合の後アレクサンダー大塚という選手が華麗な関
節技を決めてデブのアメリカ人を破ったが、あれは技術に大差があったからで、
まじめに技術を磨いた力持ちにはどんな技術も通用しないんではないかと思え
てしまう。それは格闘技ファンの幻想が消える切ない感想なのだけれども。
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小川対佐竹。これは勝負の行方は見るまでもないが、小川が信じられないほ
どシェイプアップされていてびっくり仰天した。ぽちゃぽちゃしていたほっぺ
たがなくなっている。戦い振りも激変していて、数年前には新日でプロレスラー
のキックにもびびりまくっていた男が、K-1 を曲がりなりにもやってた佐竹相
手に緊迫感のある打撃戦をやってみせるのだから驚いた。佐竹のローが効き始
めるとさすがに決定力の欠けた自分の打撃をあきらめて寝業一発で仕留めたが、
パンチでは佐竹に完全に勝っていた。こんなに動体視力がいい選手だったのか。
この小川という男には、なにか可能性が詰まっているのかもしれない。さすが
にヒクソンに勝てるとは思えないが、想像以上にドキドキさせてくれそう。
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そして噂の桜庭選手は、相手が弱すぎてなにがなんだか分からなかったのだ
が、紹介ビデオで流れた試合の模様はたしかにすごかった。ものすごいスピー
ドで妙な技(ウルトラ7チョップ?)や華麗な技を決めていた。並みの選手で
はないのはその映像だけでも十分分かるが、彼なら力が強くてうまい選手とやっ
てもスピードと技術で勝てるのだろうか。
しかし、この桜庭や大塚のケースのように極端な技量差がない限り、脚関節
を取るのは無理に見えるなあ実際。「四の字なんて全身麻酔打って札束を積ま
ない限り決まらない」と前田は言っていたが、同じことがバーリトゥード選手
にとってのヒールホールド系にも言えそうだ。技術があれば腕は取れるが、格
闘家のあばれ狂う脚は象の鼻なみにホールドし難いのではないか。で脚を攻め
ても無駄となると、UWF 系にできることはバーリトゥード選手以下になってし
まう。
最後の砦桜庭は、ヒクソンに勝てるのだろうか。日本のファンが愛し続けた
Uの技術を見せて戦うことができるのだろうか。それが多分いま日本の格闘技
ファンに残された最後のイマジネーションの残り火なのだろう。
■ 01/02/06(火) 13:46:13 □ Uの魂は燃えていた
MHテープの次には桜庭対ホイス・グレイシーという試合が入っていた。
結果は知っているが、内容は知らない。すごい。ドキドキしながら見る。これ
がすごかった。立ち技寝技アイデア反射、すべての面で桜庭が相手を1枚上回っ
てみせる。ホイスにとって『アウェイ』であることの不利さなどという、普通
の格闘技戦では考えもしない些細な部分までが、重大な意味を持つように感じ
られる。それほど素晴らしい試合だった。こんなにすばらしいレスラーが日本
にいたのかと、胸の震えが止まらなかった。
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興奮し過ぎていてなにから書けばいいのか分からないのだが、とにかく桜庭
のよさはスピードにあった。ホイスが怒濤のラッシュをかけ、ロープ際で二人
が組んで止まったときには、桜庭がホイスの腕にアームロックを決めている。
どんな体勢からホイスが打っていっても桜庭は必ず打ち返し、それが押し返す
ためのめくら打ちでなくちゃんとホイスの顔面を捉え、カウンターでクリーン
に顔面を打ち抜いてしまう。ボクサーでもあれほどうまくカウンターを当てら
れるかと思うほどヒット率が高い。目のよさと、目から入った情報の判断と、
それに基づく対応の決定と実行が信じられないくらい速い。神経の伝達速度が
ケタ違いなんではないかと思える。目で見た瞬間からほとんどタイムロスなく
パンチが相手に届くため、目標と拳の到達する位置にずれがない、そんな感じ
の当たり方をしている。
グレイシー柔術というのは、常人を超えた対応力=スピードをつけることに
よって相手の攻撃を徹底的に壊し未完成に終わらせ、同時にあらゆる方法で攻
撃する方法を網羅的に学ぶ技術に見えるのだが、桜庭のやることがあまりに速
すぎてホイスの防御をどんどんと超えている。グラウンドではさすがに実効の
ある攻撃をホイスが許さないが、それでもあのウルトラ7的両手チョップや道
着を掴んで動きを止めての高速パンチ打ち下ろしはきれいに当たっている。桜
庭のすべてが速く、スピードでホイスを上回ることによって、相手に精神的な
敗北感を与え続けている(武道家ホイスはその敗北感を顔に出さないが)。相
手を脱がせるお笑い攻撃なども、自分のペースを確保するうえで有効なのだろ
う。バーリトゥードの人はプロレスやほかの格闘技に比べて膠着状態を嫌がる
度合いが極端に低く、相手が墓穴を掘るのを永久に待つことができるのだが、
試合がそうした傾向に向かっていかないのはこうして桜庭がすべてを握ってい
るからだ。
後半、立って向かい合うたびに桜庭がすばらしいローキックを叩き込み、そ
れを避けるためにホイスがラッシュするとカウンターで顔面を打ちぬき、押し
込まれたロープからの離れ際に斜め打ち下ろしローキックを叩き込む。おお、
あれは「U」のキックだ。序盤ではスタンディングアームロックやヒールホー
ルドも決めていたし、高田を見て「UWF の技術では駄目なのか」と思ったのが
間違いだったとつくづく思う。高田に欠けていたのはスピードだったのだ。
どれだけダメージを負っても最後の一線を超えさせないホイスの技術と根性
はすさまじいものがあるが、ラウンドが進むにつれて彼は攻撃がなにもできな
くなる。普通ならもう「時間の問題」なのだが、無制限勝負であり、守るだけ
なら脚が折れても「一族の誇りにかけて」守り続けられるグレイシーであるた
め、桜庭も疲れて手数が少なくなっていく。
が最後は、ホイス陣営からのタオルという感動的な幕切れだった。桜庭の強
さが、グレイシーたちに認められたのである。涙が出そうであった。会場にい
た人々のすべてが、歴史に立ち会った喜びに爆発していた。
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そのあとなんと同日にあと2試合あるのだと知り憤る。総合格闘技でそんな
の無理に決まってるだろう。こういうのは K-1 の悪影響としか思えないので
ある。この日最高の戦いをしてみせた桜庭と藤田の両者が2試合目でタオル負
けだったことに対して、観客は主催者に抗議すべきなのだ。
その桜庭の2試合目は、こないだ高田を完膚なきまでに叩きのめしたウクラ
イナのボブチャンチンだったのだが、疲れ過ぎていて話にはならないものの桜
庭はちゃんと戦っていた。グラウンドの悪いポジションでガツガツと殴られる
と高田にはもうどうしようもできなかったのだが、桜庭はボブチャンチンが腕
を振り上げる瞬間、抑え込む力が最小になる瞬間を捉えて立ち上がってしまう。
つくづく動物のような反射神経だと思う。この試合はハナからどうにもできな
くて当たり前だが、普通のコンディションならばきっちり戦えるのが伺えた。
たとえヘビー級超Aクラスのバーリトゥード選手には勝てなくたって、こう
いう戦い振りを見せてくれればかまわないと思った。サッカーでも同じ。世界
の頂点だけを望んでいるわけじゃない。彼らが、アイデアと技術とスピードで
強大な敵と存分に戦ってさえくれれば、結果がどうなっても満足できるのであ
る。俺たちが愛してきたものが、間違っていなかったことが分かれば、にっこ
り笑って眠れるのだ。
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