ウィスラーの馬たち
   Subj : ウィスラー・ウィルダネスライディング
   From : Tomohisa Sakata
   To   : All
   DATE : 08-09-96  14:09
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  お久しぶりです。日本からきた奥さんの友人たちとともにウィスラーへ
 行ってきました。きれいな山々と高原の空気を楽しみ、そしてなによりも
 ホースバックライディングをやってまいりましたが....これが面白かった!

  僕は父親が乗馬の鬼で、子供の頃は巨人の星のようにしごかれたのであ
 りますが、それでいやになって中学生くらいからは乗ってないのです。乗
 馬クラブの体験乗馬なんてぶらぶら林道を歩くだけだろうと見くびってい
 たのですが、あにはからんや。子供の頃からの乗馬の記憶の中で、一番楽
 しかったです (^_^)。

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  馬乗りに自信のない順でおとなしい馬を充てられ、先頭と後尾にガイド
 がついて12人くらいの一列縦隊で僕たちは出発しました。なんにも練習
 してないのに出発するや否やいきなり川をザブザブと渡りはじめたのには
 驚き。ワイルドだ。僕の馬は水がきらいなようで少し嫌っていたんですけ
 ど、ほーれほーれ大丈夫だよと声をかけて川の中を進ませます。川底がど
 うなってるのかが分からないので、氷河から流れ出している冷たそうなエ
 メラルドグリーンの水を見ながら「深いところにはまらないでくれよー」
 と祈ってドキドキしていました。胴体近くまで水につかった馬の脚に水圧
 がかかって少し流されているのが感じられ、冷や冷やしつつ無事渡ります。
 思わず、「よーし、えらいぞ」と声が出、馬の首筋をパンパンと叩いてし
 まいました (^_^)。

  そしてさらに驚きは続き、登山道を隊は登り始めるのです。人間が登る
 のがやっとという急で狭く石や木の根が張ったパスを、わしわしと登って
 行く自分と馬たち。馬とはこんなことができるのかとほとんど信じられな
 いという感じ。サラブレッドはもちろん、普通の乗馬用のアラブ馬だって
 こんな山道は歩けないでしょう。クォーターホースという品種を元にここ
 で育てた「マウンテンホース」なんだそうですが、特に小さい馬でもない
 のに器用に登っていくのです。すごすぎる、グッドボーイ・首筋パンパン
 と笑いと馬誉めが止まらない私。

  そして馬の体力のものすごさには呆れてしまいます。人間ではどうやっ
 たってこの急坂を一気に登るなんて無理。犬だってハアハアのヨレヨレに
 なるでしょうに、馬たちからは鼻息も聞こえません。こともなげに自分の
 重い体と人間をしょって登って行ってしまうんですから、すごいわと感動
 してしまいます。そうか、これだから西部劇の時代には馬が大活躍したわ
 けだな、などとアホなことを考えていました。

  そして今度は下り坂。人間だって手を使わなければ降りていけないとい
 う感じの急坂を、馬たちは足場を選びながら降りてくれるのです。なんと
 いうなんという賢さ、器用さ。馬というのはなんとすごい生き物なんでしょ
 うか。

 僕の馬・トニーの前に奥さんの老いぼれ馬・イギー (笑) がいて、そい つが歩くのが遅いせいで常にトニーは鼻面がぶつかる感じで歩きづらそう でした。「ちょっと距離を取ろう」といって手綱を軽く引いて止め、よし と膝を送るとすっとまた歩きだします。「ハナをぶつけないようにここは 左を通ろう、よし、そうだ」、そう語りあいながら僕たちは森を行きまし た。昔習ったことがちゃんと通用するなあと、自分の腕前にも感動してし まう :-)。

 左手でウエスタンスタイルの手綱を操るのに慣れたところで(馬は前の 馬についていけばいいと知ってるので、Go, Wait をかけるくらいで実際は ライダーの仕事はないんですけど・笑) ビデオを回し始めました。揺れて ほとんどまともな絵にならないのは分かっているけれど、この素晴らしい 馬たちを撮っておきたい。気持ちのいいブッシュの中を山の稜線まで上り、 ウィスラー山とブラックコーム山をかなたに眺めながら隊は進みます。MTB (マウンテンバイク)で走った奥多摩の山々を思い出しながら。サマーフィー リング、氷河をいただいた山が遠くに見えるのだ。
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  瞬く間の1時間半の行程の終盤になった頃、砂利を敷いた林道に出まし
 た。突如トロット(タッタッタッという早足)を始める先頭のガイド嬢。
 え! と驚くと同時に奥さんの馬も僕の馬も勝手にトロットを始めていまし
 た。うわわ、そうか馬はここでトロットが始まると知ってるんだ。とっさ
 に昔イヤというほど父にやらされた基本技「反動抜き」で対応する私 :-)。
 100m くらいトロットで走ったところで並足(普通の歩き)に戻ります。うー
 ん、安全なところで少しだけとはいえ、なんの練習もしてない人々にこう
 して馬のスピードまで体験させてしまうというのは、日本では考えられな
 いサービスです。

  乗る前に「怪我をしても自分のせいです」という waiver(権利放棄書)
 を書かされましたが、実際トレール全体が転べば人馬とも怪我をするよう
 な悪路ばかりです。トロットだってうろたえてバランスを崩して落ちる人
 が出ないとは限らない。でも、日本では何十時間も角馬場で並足とトロッ
 トの練習だけをやらされ、それが終わっても馬場でしか乗れないのが普通
 なのです。それに比べて、この Wistler ライディングコースの「とにかく
 乗馬の楽しさを一気に味合わせてしまう」という姿勢は、はっきりいって
 僕らのように遊びで乗りたい人間には滅茶苦茶ありがたいのでした :-)。

  そして冬場はクロカンスキーのスロープになっていると思われる長い坂
 道をゆっくりと降りて、隊はまた川を渡ってステーブルへ戻っていくので
 した。楽しすぎる。休憩をこまめに入れながら一日中乗っていたい。途中
 で MTB ツーリング隊と会いましたが、僕がいつも MTB に乗っている時に
 4WD たちに向けていた「こっちのほうが全然楽しいんだぜボーイ」という
 優越感をこめた視線を、MTB の彼らに向けてしまいました (笑)。MTB より
 も面白いものは、あるものなのダスなあ広い世の中とそのとき思ったので
 す。

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  まあしょせんは借り物の馬で、馬たちにとっては毎日の退屈な労働その
 ものだというのが彼らの表情から伺われ、楽しいのは人間ばかりという引
 け目はあるのですが。自分で一頭馬を持てて、その馬と「一緒に」トレー
 ルライディングを楽しめるようになったら、それ以上の遊びはないかもし
 れません。馬と行動する時は水や食べ物をどうするのかという問題が常に
 あるので、やっぱり自分の水と食べ物とパンク修理セットがあれば完全に
 自由な MTB のほうが気楽なのですが。

  でも、ときどき感じられた馬と意志が通じ合う時の喜び(───ビデオ
 に「Go, Hold On」と気持ちが通じあうことに嬉々としている自分が映って
 いました・笑───)は、いままで馬に乗っていて感じたことのないよう
 なうれしさでした。また乗りたい。今度は一日中、あるいはグリズリーの
 恐怖がなければ (^_^;)「オーバーナイトツアー」というのにも参加してみ
 たいと思いました。それは疲れるだろうけど、楽しいだろうな― (^_^)。


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