柴田善臣男前 ('93春)
93/05/17
『カッチーに感謝しろよヨシトミー!』。安田記念表彰式、僕が見て
いたウィナーズサークル前では善臣にこんな声援が飛んでおりました。
───ふむふむ。どんな事情か知らないが、たしかに田中カッチーが乗っ
ていれば善臣にチャンスはなかったな。秋は横山兄あたりを乗せて走っ
てくれないかなゼファー。───けれどその掛け声を聞きながら僕が本
当に感じていたのは、そういうめぐってきたものだからなおさら、余計
に善臣のこの勝利は気持ちが晴れるよなあということでした。
新馬から乗り込み育て上げた馬でGIを取れたら、誰だってそれがいちば
ん嬉しいのだろうけれど、こういう訪れたワンチャンスをパーフェクトにコ
ントロールして馬を勝利に導くということも、ジョッキーの誇りだろうと想
像します。本当にあの日の善臣ゼファーは、最初から確信に満ちてふるまっ
ているように見えました。
そしてそれよりもなによりも。ホクトヘリオスと共に常に怪物級の馬に負
けてきた柴田善臣には、このあっけないほどさわやかなGI初勝利が見事に
似合っているから嬉しいのだ。表彰台へ向かう彼の笑顔を見ながら、僕はそ
う感じていました。どうしてもあがいても勝てなかったわけでは決してなく、
いつでも「その時がくれば」さらりと勝てるジョッキーだったのだという証
明を、彼はこれまたさらりと自分でしてみせたのです。気持ちがいいぜヨシ
トミ男前。
そしてありがとうゼファーと僕はつぶやきました。お前の走りは最高だっ
た。同時にヘリオスと、それを下してきた馬たちへの愛情も僕の胸によみが
えらせてくれた。────最高の勝利でした。チャンスを逃さずつかんだこ
の気高い二人に、誰もが拍手を送っていました。
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