ユース決勝・京都の霊験あらたかに
■ 99/04/24(土) 10:08:54 □ ワールドユース決勝
今日はのんびりと休み旅の疲れを取りたいのだが、お客はやはり出かけたい
のかあれこれとパンフレットなどを調べている。いつ修羅場が訪れるかとM
が緊張しているので、まあぶらぶらドライブなどして町のオリエンテーション
をしようではないか、のんびりいこうなどと提案する。ふー。
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本日は特に大事件もなく、通常範囲のイライラだけで終わろうとしている。
M父とMが政治問題で議論をしそうになったときに、M父妻が「さあどうぞ議
論しなさいよ、そしていつものように私をイライラさせるがいいわ」と肩をす
くめたのは、かなりパンチが効いていた。人間というのはここまで自分のこと
を棚に置けるものか。つもり積もった鬱憤からMが胃を痛め食欲を落としてい
るのだが、俺も彼らと一緒に飯を食っていると食欲をなくす。部屋にいても、
M父妻が(なにやってるのかしら)という感じでぼーっと無意識に人を長時間
見つめるのが、癖なんだろうが癇に障る。俺を見ないでくれ。
明日は家族一同が顔合わせとなる予定で、また昨夜のように鬼M父が登場す
るのではないかとMは心配している。酒が入るととめどがないのだとのこと。
父さん母さんに簡単に事情を説明し、そういうわけなのであまりM父を調子に
乗せないようにと念を押しておくことくらいしかできないのである。
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今夜決勝だと思うたびにドキドキしてくる。いまスペインの勝ち上がりダイ
ジェストを見た。パスできれいに点を取っているが、日本の律義DFにああい
う点の取られ方は考えられない。インターセプトからああいうかたちになり1
点取られる可能性はあるが、ああいう組織攻撃型は無理突破型に比べれば恐く
はない。
要は日本がここまでと同じように、準々決勝あたりから完全に一皮むけてし
まったサッカー大国のように自信に満ちた攻撃を繰り出せるかどうかだけだ。
あまり効いてなかったとはいえ歯車にはなっていた小野が抜け、そこに本山が
入るのが吉と出るか凶と出るか。
M父がなにか日本人についての批評をするたびにMが強く反発し、俺が風呂
に入ってる間にけんかしたらしく彼女はまた夜泣いていた。Mもやや過剰防衛
になってるのだが、「日本人とその文化は普通じゃない」と頭から思ってる人
の意見は聞き流せないのだろう。「批判じゃなくて違いを挙げているだけだ」
というのがM父の言い分なのだが、じゃなぜ俺がいないときだけそういう話を
するのかね。
M父たちが来てからというもの、Mは日本の家族や友人たちのおだやかさや
さしさが身にしみるようで、カナダに帰りたくなくなると前には言わなかった
ことをしばしばいっている。でも大学院がどうやら決まりそうなので、いずれ
にせよ帰るのだが。
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メンバーが発表された。これまで一度もプレーしてない氏家という選手が入っ
ている。不安だが、それが一番変更のないフォーメーションか。攻撃の呼吸の
良さを崩すと、ウルグアイ戦のように苦しむことになるしな。
いきなり2点取られた。絶句。1点目はここまで上り詰めてきた栄誉あるファ
イナリストにあんなFKを取るなよ審判というなんともしらける失点で(ほと
んどPKと同等距離のFKで、あんなところで蹴られたらただじゃ絶対済まな
い)、しかもその直後の本山へのPKエリアでのラリアットは無視されるとい
う信じがたい不運からゲームが始まってしまう。なんで合わせて1.5 点のハン
デ付きでこんな大事なゲームを戦わねばならんのかと、短気な俺はすでにやる
気をなくしてしまう。なんだったのだろうあれは。あれが大舞台でサッカー後
進国が受けるハンデというものなのかな。そしてペース的にそれを取り返す前
に猛然としたプレスに押されオフサイド崩れで追加されてしまった。一気に決
めろというスペインの策が完璧にあたっている。
さらに追加されて3−0で前半終了。苦しい。2点目以降は相手のペースが
落ちボールをコントロールできているのだが、ぎりぎりのところで勝負のパス
を通せない。小野がいないせいで真ん中にボールを収める部分が足りず、そこ
に入ることの多い本山に迷いが見え勝負パス勝負ドリブルがどうにも通らない。
いなくなって初めて分かるいつもあそこで止まって迷わずワンタッチでパスを
回す小野のありがたさ。苦しい。DFも1対1で非常に苦しんでいる。これ以
上失点したらおしまいだというプレッシャーが日本DFの足を止め、スペイン
は失敗してもすでに大差がついているというラクさから持てる技術が隅々まで
きれいに出切っているのだろう。イーブンならスペインとはいえあそこまでや
られないと思うのだが。
トルシエが後半出直して2点取らせてくれたら負けても満足はできるのだが、
このままではつらすぎる。稲本が入る。氏家に替えた。
試合終了。4−0、完敗であった。スペイン強し。稲本が入って本山がいつ
もの位置どりになってからはいい感じにはなり、最後は日本ボーイズたちの命
の燃焼も見ることができたのだが(実際3点目以降もあきらめない姿には感心
してしまう)、どうしてもゴールマウスはこじ開けられなかった。スペインの
DFはとことんミスがなく、そしてFWは日本にはどうにも止められなかった。
不運もあったが、ここでは力が違ったとしかいいようがない。このパスの通ら
なさと攻めてくるFWの圧力が、本当の世界の戦いなのかもしれないな。ここ
までの相手が弱かったということはないだろうが、メンバーの欠場などすべて
の不運を取り去ったとしても、勝つのはどうやっても無理という相手だった。
ふー。
まあ最初の挑戦で世界を取れるなんてことはそうはあるまい。オリンピック
も今回と同等の力を出せるだろうし、一度ここまで進めば次からは強豪と呼ば
れるだけの資格はあるのだ。お疲れ様でした、楽しかったワールドユース。
■ 99/04/25(日) 09:39:10 □ ユーモアのかけら
雨が上がり空が明るくなっているので、今日はさか田に来るビーフ牛を牧場
に見に行く日。M父が昨夜の試合の録画を見たいから結果を知らせるなという。
そうはいってもがっくりした顔を見せずにいるのは難しい。
朝から三人はアメリカンコメディのユーモアが日本でウケるかという話をし
ていて、日本人にはアメリカのコメディ「サインフィールド」がおかしくない
というのが、M父は理解できないと言っている。まあそうだろうなと思ってい
ると、「たとえばトモのペアレンツはわしと非常に似た人々だと思うぞ、ユー
モアもあるし」と言い出した。どこがじゃとMが頭を抱える ^_^;。
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牧場→中野→湯田中と長い一日になった。牧場での日本牛見学は兄貴による
すばらしいヒット企画で、M父の興味は刺激され知識欲は鋭く満たされて、同
じ肉牛でも東西かくも違うのかとカナダ側も日本側もいたく感心するすばらし
い見学となった。
折り悪く雨だったのでバーベキューを取りやめ、その後中野のKさん実家で
昼食となる。そちらの親戚とM父たちが意気投合したので任せておいて、俺と
Mは息をつく。ふー。
人々はめちゃくちゃ盛り上がっているのだが、したたかに酔ったM父妻の品
性が丸出しになり、テーブルに呼び付けられ通訳をさせられる俺はこれ以上な
いというほど不快な目に遭わされる。「今からいうジョークを文字どおりその
まま訳してちょうだい」などと命令するので、その言語というものへの無知さ
不遜さ傲慢さに胃が縮まっていく。
「いいわね、いくわよ。『本当に楽しいわ。だけど、安全に家に返すことだけ
は約束してちょうだい』。―――さあ訳して」
「??? どういう意味??」
「なにいってるのよこんなの簡単じゃない、あなたユーモアのセンスが全然
ないわね!」
......分からぬ。どこがおかしいのかどうしても分からぬ。分からぬものを
訳しても皆「???」という顔をするだけで、するとM父妻は俺の訳が悪いの
だといい、「なんて下手な通訳なの、全然コミュニケーションの助けになって
ないじゃない!」といって怒るのである。家族として(本当は義父の再婚相手
なんて100%関係ないんだけど)親切で通訳してやっているのだということ
すら彼女には分からない。あとでMに尋ねてみると、「酔ってぶっ倒れるから
あとはよろしくね」という意味ではないかといわれた。......そ、それはしか
し出来の悪い判じ物であって、ジョークとして俺に分かれという方が無理では
ないでしょうか(泣)。
二人のジョークはほぼ100%この手の、落語で下手の見本とされる「考え
オチ」であって、本当につまらない。前提とされるAがあるからBと言うと面
白いという類。こないだ俺が訳さず彼らが怒ったのは、俺が「My father
doen't ride the horse so often as he's getting old」と説明したときに彼
らが「he ってファーザーか馬か? あっはははこりゃ面白い、これをそのま
ま訳してくれ」といったやつで、これを日本人に説明するには
「英語では主語を『彼/彼女』とするので、父さんのことを『彼』として『彼
が年を取ったからあまり乗らない』と説明したのだが、ここで『彼』が父さん
なのか馬なのかが彼らは分からず、そこにおかしみを感じて笑ってるのだ」
といわねばならず(意訳して面白くしようなどとまっとうな人間が努力でき
るレベルのユーモアではない)、これをもって必訳大笑いのユーモアだと思う
センスもかなわんし、「日本語では会話で『彼は』と代名詞を使わず『父さん
は』というから訳しても通じないのだよ」と説明しても理解できず「いやなん
とか訳す方法があるはずだ、ユーモアは万国共通だ」と固執する他言語と文化
への理解の欠如にもめげる。無理難題をいわれ俺が怒っていることに気づかな
い感受性のにぶさにも、胃が重たくなっていく。
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ともあれ兄貴がM父と息が合いカラオケに連れてってくれるということなの
で、俺たちはほっとして母さんと湯田中のおばあちゃんに会いに行く。通訳で
俺は疲れ切っていたので、訪問前に観音様の桜を見た。まだ散りきっておらず
美しく、遊んでいる子供たちはこんにちはと話かけてくるし、心が洗われる。
こうして自然を見ていると、私たちの問題なんてちっぽけなものねとMはいっ
ていた。......うむ......いや少しもちっぽけじゃないよと了見の狭い俺は答
えるのであった。
おばあちゃんはこないだ転んで怪我をし歩けなくなり、食欲が落ちもはや余
命幾ばくもないという状態らしいのだが、顔色は意外によくて安心する。こん
なに体がよわっちゃってと泣かれると悲しいのだが、大丈夫また歩けるよ、そ
したら観音様の桜を見に行こうと声をかける。
看病に疲れているだろうおばちゃんも来客によろこび、久々の湯田中訪問は
実に楽しかった。彼女の海外旅行失敗談を聞き、これこそユーモアではないか
とMとうなづきあう。こうしてすらすらと同時通訳できるのは、おばちゃんが
考えオチなどという入り組んだことは決してたくまないからだとも気が付いた。
共通前提をはっきりさせてから最後にオチをパシッといって大笑いを取る(人
気コメディ「サインフィールド」がまさにそう)という手法は、通訳にとって
は地獄だ。
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心地よくてえらく長居してしまい、M父夫妻を怒らせたらまずいなと心配し
て帰るとまだ皆はカラオケから帰ってきてなかった。M父は歌がとてつもなく
うまいので盛り上がってるんだろうな。よかった助かった。帰ってきたM父た
ちと兄貴たちは、最高に意気投合していた。よかった助かった。
家に帰ってからも盛り上がりが鎮まらないM父妻が、あたしたちが歌うから
伴奏してちょうだいと50年以上前の英民謡を演奏させられたのにもまたまいっ
た。知らない歌のキーを拾いメロディを予測してコードをつける(しかも古い
歌なので8小節4コードなどという分かりやすい構成にはなっていない)なん
て無理。
やっと二人が寝てくれてから、Mがカナダに電話して声を震わせる。なんで
こんな目に遭うのか分からないわ、トモに申し訳なくて。「トモに向かってユー
モアがないなんていうのよ」と彼女がいうと、受話器の向こうから爆笑が聞こ
えてきた。いや笑いごとじゃないすよ(笑)。
電話をして母親にぶちまけたことで胸のつかえがおりて布団に入ったMに、
俺は世の中の仕組みが分かったよという。この世の中でなんでライトウィング
がこうも力を持っているか、その秘密が分かったよ。彼らのような人々、人を
簡単に傷つけられて、そして自分たちがそうしていることに気づかずに生きて
いける人々が、きっと俺たちの想像以上に多いのだろう。彼らは他人を省みず
なんでもやれるからゆえに権力の座に上っていき、俺たちみたいな小心ピープ
ルを牛耳って世界を動かしているのだろう。違うかね?
しかし俺にとってはM父よりもM父妻の方がはるかにたまらんわ。
■ 99/04/26(月) 12:57:01 □ 京都の霊験あらたかに
Mが二人を長野に連れていってくれたので、俺はオフとなる。ふうと一息つ
いてから銀行など用足しをする。銀行の外国為替の窓口にはいつものきれいな
お嬢さんがおり、この人にこないださか田レストランにいらしてましたねなど
と話をしてにやける。それから臥竜山の裏のうつくしい山道を見つけ、百々川
でコーヒーを飲んで帰った。気持ちが本当にささくれ立っているのだが、昨日
見た湯田中の観音桜、臥竜山の草木や花がそれを鎮めてくれる。
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戻ってきたMに話を聞いてみると、今日は何事もなくおだやかに過ごしたそ
うだ。ひとつほっとする話があって、M父妻が例によってくだらんジョークを
いったときにMがつれない反応をしたことからまたユーモアの話になったらし
いのだが、その会話が面白かったとのこと。
M「ユーモアは文化により違うのよ、たとえばあなたと私だってぜんぜん違う
ユーモアを持ってるじゃない」
M父妻「......そういえばそうね」
M父「日本では我々みたいな皮肉なジョークは通用せんのだよ。みんな
礼儀正しいからな」
M「その通りだわよ、えらいわM父!」
M父妻「......でも、それじゃ日本人にユーモアはあるの?」
M「なに馬鹿いってるのよあなた」
という会話。もうM父妻の愚劣さは話にならんので考えるにも値しないが、
このM父のいきなりすぐれた文化理解度はなんだ!? もしかしてこれは、昨
日兄貴たちと丸一日いい日を過ごしたことによって真の他文化理解が成ったの
ではないか? そうだそうに決まっとる! とよろこぶ私たち。これがぬか喜
びになりませんように。そういえば京都の神社仏閣で俺たちがひたすら祈った
のは、「これ以上彼らにひどい目に遭いませんように、かなうなら彼らがよく
なりますように」ということだったのだ。早くも効き目があったのかもしれぬ
\(~o~)/。
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